映画評「都会育ちの西部者」

 原題「AN EASTERN WESTERNER」 製作国アメリ
 ローリン・フィルム製作 パテ・エクスチェンジ配給
 製作・監督ハル・ローチ 出演ハロルド・ロイド、ミルドレッド・デイヴィス

 クラブで遊んでばかりいるロイドは、親の命令によって西部で生活することになる。西部の街に着いたロイドは、荒くれ者に父親を人質に捕られて結婚を迫られたミルドレッドを救おうとする。

 ハロルド・ロイドは、チャールズ・チャップリンの模倣のキャラクターであるロンサム・ルークで短編コメディに多く出演した後、中流階級出身の普通の青年というキャラクターで高い人気を得ていくようになる。この作品は、中流階級出身のキャラクターで多くの2巻物のコメディに出演していた頃の作品である。

 話は単純だが、東部の男が西部に行くことから生まれるカルチャー・ギャップと、スラップスティックを組み合わせることで様々なギャグを生み出している。

 注目すべきは、ミルドレッドとの関係にある。ミルドレッドに頼まれて、命を賭けてミルドレッドの父親を助けるロイド。この姿はどこかチャップリン映画、特にミューチュアル時代の頃のチャプリン映画を思わせる。追っ手をかわしたロイドとミルドレッドが、2人で手をつないで線路を画面の奥に向かって去っていくショットは、チャップリンおなじみのショットである(基本的にチャップリンは1人で去っていくのだが)。どちらも、ペーソスを感じさせるショットである。

 かつて、チャップリンの見た目の模倣をしたロイドは、チャップリン映画の精神を模倣しているかのようだ。そして、ロイドは数々の模倣を経て、上質なコメディを長篇で私たちに提供してくれる。三大喜劇王といっても、チャールズ・チャップリンやバスター・キートンが天才肌であるのに対し、ロイドは努力家である。模倣に工夫を重ねて、ロイドはやがてロイドとなる。

 ちなみに、ロイドは少し前に爆発事故で右手の親指と人差し指を失っている。そのため、ラバー製の手袋をしてごまかしながら撮影していたのだが、その手袋を作ったのはサミュエル・ゴールドウィンだったという。移民のゴールドウィンは、映画界に入る前は手袋の販売を仕事にしていたのだ。このエピソードからは、まだ小さかったころのハリウッドの仲間意識が感じられ、少し心が温まる。