リチャード・バーセルメスが作り上げたアメリカ青年のイメージ

 D・W・グリフィス監督作でスターとなり、その後ヘンリー・キングと独立プロを設立していたリチャード・バーセルメスは、代表作ともいえる「乗合馬車」(1921)を製作、自らが主演している。「乗合馬車」の純朴な青年デイヴィッド役にはバーセルメスのイメージが最も現れているという。また、「乗合馬車」で描き出された田園は、当時の多くの人びとにとってはまだ懐かしい思い出の世界であり、都市化の発達に反発する人々の人気を集めた。

 バーセルメスが作り上げた人物像についてアレグザンダー・ウォーカーは「スターダム」の中で、次のように書いている。

 「このバーセルメスが作り上げたアメリカ青年のイメージは、彼のあとに大衆の人気をつかんだスクリーンのヒーローたちによって分散して受け継がれていった。すなわちジョン・ギルバートは闘う粘り強さを、ジェームス・スチュアートは純朴さを、ヘンリー・フォンダアメリカ人の魂を、そしてゲーリー・クーパーは良心の重みを受け継いだのだ」

 「(「乗合馬車」の主人公である)デイヴィッドの中に集約された堅古な美徳は、彼を生み出し無垢なるアメリカが遠い伝説の一部と化してしまった後も、ずっと長く銀幕のヒーローにつきまとったのである」

 「乗合馬車」で人気の絶頂に達したバーセルメスだが、1920年代の狂乱の時代が始まると、純朴なイメージは古めかしくなっていった。それでも、バーセルメスは似たようなキャラクターを演じ続けて人気を失っていくことになる。

スターダム―ハリウッド現象の光と影

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