ドイツのスペクタクル劇、歴史劇の名声

 「パッション」(1919)を始めとするエルンスト・ルビッチのスペクタクル映画、歴史映画は国際的な名声を確立し、ドイツに外貨と誇りをもたらした。ドイツ映画界では、同じような歴史スペクタクル映画が多く製作されていた。

 「快傑ダントン」(1921)はディミトリー・ブコエツキーが監督した作品で、評判となった。フランス革命を舞台に、革命の主役たちのダントン、ロベスピエールサン・ジュストなどが登場する作品だった。他にも、レディ・ハミルトンを描く「恋のネルスン」(1921)が、リヒャルト・オズワルド監督によって作られている。

 ドイツのスペクタクル劇は、スターたちによっても支えられていた。

 エミール・ヤニングスはルイ十五世、ヘンリー八世、ファラオ・アメネス、ダントンなどを演じた。ヴェルナー・クラウスは、ロベスピエール、「オセロ」のイアゴー、「ベニスの商人」のシャイロックなどを演じた。コンラート・ファイトはネルソン、チェザーレ・ボルジアなどを演じた。3人ともラインハルト劇団から映画界入りしており、オーバー・アクトを得意とし、内面的よりも肉体的に演技した。彼らの演技は、ドイツ映画の1つのスタイルであった。

 歴史映画は、ドイツでは「コスチューム・フィルム」と言われた。一連の歴史劇は非歴史的で娯楽的であったが、役者たちは新しい歴史上の人物のようになった。「歴史でないものが歴史となり、時代が新しい“歴史”をつくりだすのである」と岡田晋は「ドイツ映画史」で述べている。

 コスチューム・フィルムは1920年代から1930年代にかけて歴史を取り上げ続けた。ヒトラー以前・以後もフリードリッヒ大王を演じたオット・ゲビュールについて岡田晋は同著で、「もはやひとりの俳優ではなく、フリードリッヒ大王そのものとして、大衆を支配したのである」と述べている。