ドイツ映画のオリジナル・スタイル 室内劇映画(カンマーシュピール)

 ドイツでは、表現主義映画の影響からセット重視・スタジオ主義がスタイルの1つとなっていた。そして、その流れが「室内劇映画(カンマーシュピール)」を誕生させた。「室内劇」とは、もともとマックス・ラインハルトが提唱した室内で展開する自然主義心理主義ドラマのことであり、ここでも初期ドイツ映画界におけるラインハルトの影響を見ることができる。

 「裏梯子」(1921)は、そんな「室内劇映画」の典型の1つである。舞台俳優から演出家となり、当時ラインハルトと並ぶ演出家だったレオポルド・イエスナーの初監督作であり、シナリオは「カリガリ博士」(1920)のカール・マイヤーが担当した。また、ヘンニー・ポルテンが主演している。貧しい女中とその恋人と、二人の仲を引き裂こうとする郵便配達夫が主な登場人物である。女中を巡って男二人が争い、郵便配達夫が女中の恋人を斧で惨殺し、女中は屋根から身を投げるというストーリーだった。

 ルプ・ピック監督の「破片」(1921)も、「室内劇映画」と言われる。雪に埋もれた森の一軒家で、単調な鉄道線路巡視の仕事をしている男がいる。ある日、上役である鉄道監督官が巡察に来て男の家に泊まる。監督官は男の娘を誘惑して、棄てる。男の妻は哀しみのあまり、雪の夜の寒い屋外に飛び出して凍死してしまう。男は監督官を絞め殺し、急行列車を止めて機関士に「俺は、人を殺した」と叫ぶ、という内容の作品である。シナリオを担当したのはカール・マイヤーで、字幕が「俺は、人を殺した」のみという作品だったという。

 「破片」の監督を担当したルプ・ピックは、ラインハルト劇団から1915年に映画界入りした人物である。スチュアート・ウェッブやジョー・ディーブスといった探偵シリーズに出演した後、1919年にプロダクションを起こして製作者になっていた。妻のエディット・ポスカを主役に製作・演出・俳優を兼ねて映画を製作していたが、「破片」で名声を高めた。