映画評「黙示録の四騎士」

 原題「THE FOUR HORSEMEN OF THE APOCALYPSE」 製作国アメリ
 メトロ・ピクチャーズ・コーポレーション製作・配給
 監督レックス・イングラム 原作ヴィセンテ・ブラスコ・イバニェス 脚色ジューン・マシス
 出演ルドルフ・ヴァレンティノ、アリス・テリー

 アルゼンチンで成功した男には2人の娘がいて、それぞれフランス人とドイツ人の夫がいた。男の死後、2人の娘と子供たちは夫の祖国にそれぞれ戻るが、やがて第一次大戦が勃発する。

 内容は、第一次大戦の悲劇を告発する内容となっている。途中では聖書に登場する「黙示録の四騎士」の説明があり、第一次大戦を予言されたものとすることで、映画に宗教的な意味を与えている。

 ヨーロッパの国籍など無関係なアルゼンチンから、国籍・宗教上の理由で国々が対立するヨーロッパへ渡ることで不幸が訪れるという展開は、第一次大戦を引き起こしたヨーロッパの国々を告発する一方で、新大陸アメリカ(この映画はアメリカ映画である)を賛美しているように感じられる。また、ヨーロッパの国々の中でも、ドイツの描き方はステレオタイプであり、厳格さと残虐さが強調された描き方はコメディのように感じられさえする(第一次大戦時、ドイツはアメリカの敵国でもあった)。

 といった、プロパガンダ的な側面を差し引いたとしても、「黙示録の四騎士」」は反戦映画として成立した作品となっている。反戦映画として、私が最も響いたのはルドルフ・ヴァレンティノ演じるフリオの享楽的な生き方が妨げられるという展開にあった。フリオの享楽的な生き方うんぬんではなく、自由に生きるフリオの生き方を戦争が妨げるという展開にリアリティを感じた。主義主張が特にあるわけではなく、フランスにいながらフランス人ではないフリオが出征するという展開は、軍国主義に屈しているようにも見えるが、それは戦中という状況の中、多く見られた光景なのだろうと思われるのだ。

 「黙示録の四騎士」は、ルドルフ・ヴァレンティノが有名になった作品として知られているが、ヴァレンティノはアンサンブル・キャストの一角を占めるにすぎない。それでも、ヴァレンティノの存在は「黙示録の四騎士」にリアリティを感じさせるものを与えている。たとえば、人妻とのラブシーンにおけるヴァレンティノの仕草。胸に触れたりしながら官能的に恋人を抱き寄せる。ヴァレンティノと人妻がいちゃつくシーンでは、これまでに作られた映画では見たことがないような親密さを感じさせる。こういった仕草の1つ1つが、ヴァレンティノの愛情を感じさせ、映画を確かなものにしているように思える。有名なタンゴのシーンよりも、人妻とのやり取りに大衆がヴァレンティノに熱狂した理由を感じる。

 「黙示録の四騎士」の最大の功績は、ラブ・ストーリーと戦争を絡めた点にあるだろう。おそらく、それまでにも2つを絡めた作品はあったことだろうが、ルドルフ・ヴァレンティノという人物を得ることによって、2つは見事に機能しているように思える。

 レックス・イングラムの演出は手堅い。上流階級の恋の火遊びの部分も、戦闘シーンのようなスペクタクルシーンも、黙示録の四騎士を登場させる特撮シーンも、それぞれそつなくこなされている。ただし、そのどれもが「そつなく」という感じではあるが。ただし、丘に無数の墓標の十字架が並ぶラストシーンは、ハッとさせるものがある。この映像だけで、第一次大戦の悲惨さ(ここでは、フリオの妹の恋人が片腕をなくしていることがさりげなく示されることで悲惨さが強調されている)の一端を垣間見ることができるかのようだ。

 「黙示録の四騎士」は、ルドルフ・ヴァレンティノが有名になった理由を垣間見ることができる。それは、有名なタンゴシーンに宿っているのではなく、全編に宿っている。ヴァレンティノは撮影にあたり、パリでの衣装を自費で購入したという。そして、自費の衣装を着ているであろうシーンが、特にヴァレンティノが魅力的に見える。1914年のデビュー以降、脇役に甘んじていたヴァレンティノは自分に投資し、それは見事に成功している。

黙示録の四騎士 [VHS]

黙示録の四騎士 [VHS]