映画評「シーク」

 原題「THE SHEIK」 製作国アメリ
 パラマウント・ピクチャーズ製作・配給
 監督ジョージ・メルフォード 出演ルドルフ・ヴァレンティノアグネス・エヤーズ、アドルフ・マンジュー

 アラビアの青年酋長アーメッドは、町で出会ったイギリス人女性に一目惚れし、娘を奪ってきてしまう。

 伝説的な俳優であるルドルフ・ヴァレンティノが主演した作品である。ヴァレンティノと言えば、その異国的な風貌から女性の人気を得たことで有名だ。最初の男性のセックス・シンボルとも言われている。

 ヴァレンティノの風貌の特徴は、何と言ってもハンサムであることと、つるんとした顔を持った中性的な魅力だ。「シーク」でも、他のアラブ人が浅黒くて濃い髭をたくわえている中、王子様のような風貌を持つことでそのハンサムぶりを見せつけている。

 内容は、陳腐なメロドラマといってしまってもいいだろう。アーメッドは惚れたイギリス人女性を誘拐してくる。始めは嫌がっているイギリス人女性だが、最後にはアーメッドに恋してしまう。しかも、アーメッドは実は欧米人であるというおまけまでついている。人種的にも混合することなく、アーメッドとイギリス人女性は調和するというわけだ。

 アーメッドが取る行動は短絡的で、野蛮とも言えるものだが、ヴァレンティノならばそれも許されるという内容となっている。ストーカーも、人によっては純愛となるというのと同じ理屈だ。「シーク」は、内容の是非を問うタイプの作品ではない。ルドルフ・ヴァレンティノの魅力を焼きつけようとした作品であり、その試みが成功しているかという点が問題だ。

 ヴァレンティノの演技は大げさすぎるように見える。目を大きく見開いたり、口元をにやけさせてみたりという表情は、滑稽にすら感じられる。脚本は2人の結びつきが深まっていく過程に力を入れることよりも、アーメッドとイギリス人女性の両方の事情に通じているフランス人男性の存在に重きが置かれている。とはいえ、フランス人男性の役割は、あくまでも両者の立場の説明に終わっているように感じられた。

 ヴァレンティノの演技や脚本といった部分を補っているのが、砂漠だ。実際にはアメリカ国内の砂漠で撮影されているものの、砂漠を駆ける馬や砂嵐は異国情緒を感じさせるのに十分の役割を果たしている。「シーク」から異国情緒を取ったら、何も残らないといってもいいくらいだろう。

 このハーレクイン的なメロドラマ映画は、ヴァレンティノを活かす舞台設定によって、ヴァレンティノのファンにとっては欠かすことのできない作品になっていると言えるだろう。