映画評「勝手口から」

 原題「THROUGH THE BACK DOOR」 製作国アメリ
 メアリー・ピックフォード・カンパニー製作 ユナイテッド・アーティスツ配給
 監督アルフレッド・E・グリーン、ジャック・ピックフォード 撮影チャールズ・ロシャー
 製作・出演メアリー・ピックフォード 出演アドルフ・マンジュー

 ベルギーの女性ルイーズは、アメリカ人リーヴスと結婚をするが、リーヴスの希望で娘のジャンヌを置いて出ていく。ルイーズのお手伝いだったマリーの元で育てられたジャンヌは、第一次大戦の危険から逃れるために、アメリカの母親の元へと向かう。

 当時、人気の絶頂にありながら、少女役からの脱皮を模索していたメアリー・ピックフォード主演の作品である。この作品でピックフォードは10歳から20歳にかけての役柄を演じており、観客の求めていた少女役を演じた作品といえるだろう。

 自らの再婚の為に子供を置き去りにする母親、ジャンヌを育てるうちに自分の子供のように愛するようになったジャンヌの育ての親。映画の冒頭で「これは母親のストーリーである」という字幕が出る通り、序盤はピックフォードの映画ではなく、母親の愛を描いたシリアスな作品であるかのような雰囲気を漂わせる。しかし、もちろんそうはならない。途中からは、ピックフォードを中心にした恋愛あり、策略ありの娯楽作の様相を見せる。

 ピックフォードは他の作品と同じように魅力的だ。犬や馬といった動物、2人の幼い子供たちにも助けられ(動物と子供にはどんな名優もかなわない)、ピックフォードは無邪気な魅力を放つ。特に、床を磨くブラシをスケート靴のように履いて床掃除をするシーンは、チャールズ・チャップリン映画のワン・シーンのようだ。もちろんチャップリンほどの身体性を見せるわけではないが、転びそうになりながらも中々転ばないところにピックフォードの運動神経の良さがうかがえる。

 いつものような無邪気さだけではない。この頃の多くのピックフォード作品で起用されている撮影のチャールズ・ロシャーは、真正面からソフト・フォーカスで捉えたクロース・アップで、ピックフォードを美しく捉えている。公開当時29歳になっていたピックフォードは、少女の演技よりも10代後半を演じている方が魅力的だし(それでも実年齢とは10年の隔たりがある)、それを支えている1つがロシャーの撮影であることは間違いないと思う。

 「勝手口から」は、もちろんピックフォードのファンのための作品である。だが、ピックフォード自身が製作を担当していることもあってか、ファンに迎合した作品にはなっていない。自身の演じたい大人の役柄と、ファンが求めるピックフォード像との間の微妙なところを突いた作品である。