映画評「小公子」

 原題「LITTLE LORD FAUNTLEROY」 製作国アメリ
 メアリー・ピックフォード・カンパニー製作 ユナイテッド・アーティスツ配給
 監督ジャック・ピックフォード、アルフレッド・E・グリーン 製作・出演メアリー・ピックフォード
 原作フランシス・ホジソン・バーネット 脚本バ−ナード・マッコンヴィル 撮影チャールズ・ロッシャー

 ニューヨークに住む少年セドリックは、優しい母や陽気な友達たちと幸せに暮らしていた。ある日、イギリスの貴族の家から使いがやって来て、セドリックが貴族の唯一の後継者であることを伝える。セドリックの母は、貴族の息子の1人と駆け落ち同然で結婚したのだった。セドリックと母は、イギリスへと向かう。

 「小公女」「秘密の花園」でも知られるバーネットのベスト・セラーを映画化した作品である。ちなみに、原作「小公子」は日本でも流行した。後の日産車「セドリック」は小公子の主人公から取られている。

 当時29歳だったピックフォードは、十八番である子役(12歳役!)と母親役の2役を演じている。当時のピックフォードは、大人役への脱皮を図りたい自身の意志と、大衆がピックフォードに求めるキャラクターのギャップに苦しんでいた。ギャップを埋めるために、ピックフォードはしばしば2役を演じており、「小公子」もその1つである。冒頭で、わざわざピックフォードが母親役を演じることを説明する字幕が挿入されていることからも、ピックフォードの並々ならぬ力の入れ具合が分かるというものだ。

 登場人物のほぼ全員が「良い人間」である。こう書くと退屈なようにも感じられるが、そんなことはない。快活な主人公セドリックを中心に、ニューヨークの気のいい友達たち、温かみを感じさせる屋敷の召使たち、落ち着いた優しさを見せるピックフォードが2役を演じている母親、金持ちゆえのさびしさと誇りを感じさせるセドリックの祖父である貴族。登場人物たちが、みな魅力的に映し出されているため、退屈さを感じることはなかった。

 ピックフォードが2役を演じる作品は他にもあるし、1人の人物が2役を演じた作品も他にもある。二重露出の技法を使って撮影されているのだが、「小公子」が特別なのは、セドリック役のピックフォードが母親役のピックフォードの頬にキスをするシーンが撮影されている点だ。当時の技法では、2人の人物が重なるシーンを二重露出で表現するのは難しい。この3秒のシーンの撮影に、15時間が費やされたという。