映画評「チャップリンのゴルフ狂時代(のらくら)」

 原題「THE IDLE CLASS」 製作国アメリ
 チャールズ・チャップリン・プロダクションズ製作 ファースト・ナショナル・ピクチャーズ配給
 監督・製作・脚本・編集・出演チャールズ・チャップリン 出演エドナ・パーヴィアンス、マック・スウェイン

 ファースト・ナショナル時代のチャップリンによる31分の短編。この頃のチャップリンは「キッド」(1921)のような大作を作る一方で、ファースト・ナショナルとの契約をこなすための作品を製作していた。

 この作品も、どちらかというと契約をこなすための作品として作られていただろうが、だからといってつまらない作品ではない。「キッド」のようなドラマはこの作品にはないが、優れたギャグの数々がある。

 チャップリンは、いつもの浮浪者の役柄と酒飲みの紳士の役柄の二役を演じている。ここに、上流階級への風刺を見ることもできるが、この作品は風刺よりもギャグのおもしろさの方が冴えている。いつもの浮浪者が活躍するゴルフ場でのシーンも面白いのだが、酒飲みの紳士のギャグの方が冴えているように思える。

 上流階級の酒飲みが見せるギャグはアイデアが詰め込まれている。髪をとかそうと帽子を取るがブラシの上に置いてしまい、ブラシがみつからない。やっとブラシを見つけるが、ブラシを取るために帽子を被ってしまってとかせないといったギャグをさりげなく見せた後に、ズボンを履いていないことに気づくというギャグ。しかも、ズボンを履かないままホテルのロビーに出かけてしまい、気づかれずに部屋に戻るために、新聞隠しながら屈んで歩くというギャグにつながる。

 最も素晴らしいギャグは、妻から「酒を辞めるまで、別の部屋に泊まる」と言われた酒飲みの紳士が、カメラに背を向けて肩を震わせて泣いているようにみえるが、実はシェイカーでカクテルを作っていたというギャグ。このギャグはチャップリンの映画に数々あるギャグの中でも、私が特にお気に入りのものの1つだ。

 全体的に、ミューチュアル社までのドタバタ短編の流れを組みながらも、そのギャグ1つ1つはより工夫されておもしろいものになっている。さらに、浮浪者役だけではなく、上流階級の男性の役柄でも見事なギャグを見せてくれるところを見ると、チャップリンが浮浪者しか演じられないコメディアンではないことを証明している。

 多くの長編や、「担え銃」(1918)や「偽牧師」(1923)といった有名な短編と比べて知名度が低いこの作品だが、何の予備知識がなくとも楽しめる好編になっている。私がこの作品のリバイバル上映を映画館で見たとき、場内は爆笑の渦に巻き込まれた。観客の多くは、この作品のタイトルすら知らず、同時上映の「ライムライト」がメインであったであろうにも関わらず。この作品はそんな映画だ。