映画評「悪太郎」

 原題「THE GOAT」 製作国アメリ
 ジョセフ・M・スケンク・プロダクションズ製作 メトロ・ピクチャーズ・コーポレーション配給
 監督・脚本マルコム・セント・クレア 監督・脚本・出演バスター・キートン

 キートンは殺人鬼と間違えられて、警官に追われるはめになる。

 話は単純だ。警官にひたすら、追われて、追われて、追われまくる。そのほかにはないと言ってもいいくらいだろう。このドタバタ中のドタバタはキートンのアクロバティックな動きと、素晴らしいアイデアの数々によって、とっても面白い作品になっている。

 キートンは「悪太郎」の中で、視覚的な「勘違い」「見せかけ」のギャグを多く見せる。行列に並ぶ生きている人間とマネキンをキートンが間違えるギャグ。車に乗って逃げようと、車の後部に取り付けられたタイヤに飛びつくが、タイヤ屋の看板だったというギャグ。少し系統は違うが、粘土で出来た馬に乗ってポーズをとって銅像になりきるものの、粘土の馬がキートンの体重に耐え切れずに崩れてしまうギャグもある。いずれも、非常に視覚的で驚かされ、笑わせてくれる。

 キートンのお得意のアクロバティックな動きは、それほど多くはない。向かってくる警官の肩に飛び乗ったかと思うと、高いところにある窓から外に飛び出すものがもっとも目に付くくらいだ。その代わりといってはなんだが、電話ボックスに入ったキートンがエレベーターで下に降りるように身をかがめて、警官をやり過ごすギャグでは、見事なパントマイム芸を見せてくれる。

 シュールなギャグも冴えている。エレベーターが何階にあるかを指す表示板の針を動かすことで、エレベーターを自分のいるところに来ないようにし、しまいには屋上よりも先まで針を動かすことでエレベーターを外に放り出してしまう。

 「悪太郎」はキートンのパントマイム芸と、アクロバティックな技と、アイデアに満ち溢れた視覚的ギャグと、シュールなギャグがバランスよく配合された見事な作品だ。バランスが取れている分、インパクトに欠けるという見方も出来るが、それはあまりにも意地悪な見方だろう。

 ちなみに、この作品には後年のチャップリンの「街の灯」(1931)を思わせるシーンがある。1つは、前述の粘土で作られた馬のシーンで、華々しく除幕されるとそこにはキートンがいるというシーン。もう1つは、高級車から降りることで、金持ちと勘違いされるというシーン。だからどうということではないが、少し気になった。

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