映画評「即席百人芸」

 原題「THE PLAY HOUSE」 製作国アメリ
 ジョセフ・M・スケンク・プロダクションズ製作 ファースト・ナショナル・ピクチャーズ配給
 監督・脚本・出演バスター・キートン 脚本エドワード・F・クライン

 ヴォードヴィルショーの裏方であるキートンは、ひょんなことから猿として舞台に出る羽目になる。

 「即席百人芸」を語る上で最も引き合いに出されるのは、冒頭のシーンだ。オーケストラからミンストレル・ショー(白人が顔を黒く塗って黒人を演じるショー)、観客までをすべてキートンが演じ、多重露出を使って同じ画面上に姿を現すというシーンで、ジョルジュ・メリエスの「1人オーケストラ」(1900)を思い出させるシーンとなっている。ちなみに、当時あらゆるクレジットに自分の名前を記させていたトマス・H・インスを皮肉っているという。

 このオープニング・シーンは老若男女を問わず演じ分けるキートンの演技力の確かさを知ることが出来るが、その後のシーンの方が個人的にはおもしろく感じられた。

 裏方であるはずのキートンは、舞台に出るはずの猿を逃がしてしまったために、猿の代わりにステージに立つことになる。キートンの猿芸は見事の一語に尽きる。

 その後も、兵隊を指揮する上官役で舞台に登場し、コミカルなギャグを見せてくれるし(兵隊のシーンは、兵隊たちの功績が大きい)、ラストでは水槽から出られなくなった女性を助けるためにハンマーで水槽を割ると、信じられないくらいの水が溢れ出して劇場を水浸しにしてしまうというシュールなギャグも見せてくれる。

 個人的にお気に入りなのは、付け髭に火がついてしまった男を助けるために、「火災用」の斧(ドアを叩き壊して逃げ道を作るためのもの)で男を殴りつけて、気絶しているところを斧で付け髭を剃るというギャグ。斧の使い道が間違っているというギャグに加えて、大きな斧で髭を剃ってやるというこれまた使い道が間違っているというギャグ(結局は男を助けてやるという意味では正解)の二段構えになっている。

 この頃のキートンは、自らのアクロバティックな技のみに頼るのではなく、映像のテクニックからシュールなギャグと、溢れるアイデアを20分強に圧縮してどれも見事な作品に仕上げている。短編の製作において習熟してきたことを物語っている。

 ちなみに、「即席百人芸」はアーバックルとの共演時代の「初舞台」(1919)にストーリーは非常によく似ている。だが、アイデアはより工夫が凝らされ、テンポもよくなっているように感じられた。

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