映画評「キートンの船出(キートンの漂流)」

 原題「THE BOAT」 製作国アメリカ ファースト・ナショナル・ピクチャーズ製作・配給
 監督・脚本・出演バスター・キートン

 妻と2人の子供を連れて、船で出港するキートン。だが、嵐に巻き込まれ、船は沈んでしまう。

 キートン映画の特質の1つとも言われる、破壊のおもしろさが充満している作品。

 冒頭、完成した船をガレージから出そうとするが、入り口よりも船が大きい。強引に車で引っ張ってガレージから出そうとすると、ガレージ全体が破壊されてしまう。いざ出港の段になると、今度は船があっさりと沈んでしまう。

 再び出港するも、今度は嵐に巻き込まれる。この嵐のシーンが混沌の極みとも言え、最大の見所になっている。あまりの嵐の激しさに、転覆しては起き上がりとグルグルと回転する船内を必死に移動するキートンの姿は、キートンのアクロバティックな動きと、想像力豊かな舞台装置というキートン映画の特質がうまく出ていて、笑いを誘う。さらに、やっと回転が収まったときに、ドアを開けて妻と子供がぐったりと倒れている様子を見て、すぐにドアを閉めて見なかったことにするシーンも残酷だが、笑える。

 残酷さも、この映画の特質の1つとなっている。特に子供に対しての扱いは非情だ。水に落ちた子供助ける前に、キートンは温度計で水の温度を測って冷たくないか確認する。子供を運ぶときも、まるで荷物のようにベルトのところつかんで持ち上げる。

 この残酷さがいやらしく見えない。それは、妻を演じているシビル・シーリィの影響も大きい。シーリィは、キートンがどんな大惨事にあっても無表情なのに呼応するように、どんな状況でも大げさに騒いだりしない。このキートンとシーリィのコンビは、まるでこの世ではないどこか別の世界、キートン一家の世界を作ることに成功しており、「キートン一家の世界では、別に残酷でもなんでもないんだよ」という雰囲気を漂わせている。

 シーリィは、「文化生活1週間(マイホーム)」(1920)でも、キートンと息の合ったコンビを見せてくれている。キートンとの共演作は多くないのが非常に残念だ。チャールズ・チャップリンエドナ・パーヴィアンスのコンビが独自のペーソスの世界を作り上げている。キートンとシーリィのコンビは独自のドライな世界を作り上げている。

 ラストの落ちもばっちりと決まっており、キートンの短編の中でも屈指の出来となっている。この時期のキートンの短編に外れは無い。

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