映画評「BRADE AF SATANS BOG」

 製作国デンマーク 英語題「LEAVES FROM SATAN'S BOOK」
 ノルディスク・フィルム製作 監督・脚本カール・ドライヤー

 サタンによる人間への誘惑を、キリストの処刑、スペインの宗教裁判、フランス革命フィンランド内戦という4つの時代の出来事の中に描く。カール・ドライヤーによる監督第3作であり、D・W・グリフィス監督「イントレランス」(1916)の影響を受けた作品である。

 「イントレランス」が、グリフィスによる映画における大いなる実験として、「イントレランス(不寛容)」という高尚で抽象的な言葉を主題に格調高く作り上げた野心作であるのに対し、この作品はそこまでの野心さは感じられない。

 4つの時代を舞台にして、サタンの活躍=人間の弱さを描いているが、「イントレランス」のように別々のエピソードが重層的に語られるのではなく、オムニバス形式で順序良く描かれている。「イントレランス」は「わかりにくい」という評価から、日本ではバラされて公開されたというから、ドライヤーが見た「イントレランス」も、もしかしたらオムニバス形式に変えられたものだったのかもしれない。

 もちろん野心的ではないからといってダメだと言いたいわけではない。宗教裁判のエピソードには宗教に対する意地悪な視線が、フランス革命のエピソードには歴史上の人物ではなく1人の人間としてのマリー・アントワネットがある。正直、キリストの処刑は多くの映画で描かれている上に、描き方や演出に特徴があるように感じられなかったため、いま一つだった。また、フィンランド内戦のエピソードは、1918年に起こったフィンランド国内の赤軍と白軍による内戦という、私が今まで知らなかった歴史上の出来事を教えてくれたものの(フィンランド内戦を描いた初の映画であるという)、内容的には平凡に感じられた。

 前作「牧師の未亡人」(1920)にあったドライヤーらしさは、「LEAVES FROM SATAN'S BOOK」には感じられない。だが、事前に知らなくても気付くくらい、ドライヤーが「イントレランス」の影響を受けていたという事実は面白い。そして、同じような作品を作ってしまうところがさらに面白い。「イントレランス」は当時においては革新的な作品だったという証左であるといえるだろう。