映画評「霊魂の不滅」

 製作国スウェーデン 原題「KORKARLEN」 英語題「THE PHANTOM CARRIAGE」
 スヴェンスカ・フィルムインダストリ製作・配給
 監督・脚本・出演ヴィクトル・シェーストレーム 原作セルマ・ラーゲルレープ 撮影ユリウス・ヤンソン
 出演アストリード・ホルム、トーレ・スヴェンボルグ、ヒルダ・ボルグストレム、コンコルディア・セランデル

 アル中のダヴィッドは、大晦日の夜にケンカが元で死んでしまう。そこにやって来た馬車には、昨年の大晦日に死んだ、死神に仕えるかつての友人がいた。友人は、ダヴィッドがいかに家族に対して、ダヴィッドを更生させようとした救世軍の女性に対して、ひどい態度を取っていたかを思い出させる。


 映画監督ヴィクトル・シェーストレームの代表作であるとともに、サイレント期のスウェーデン映画を代表する、いや世界のサイレント映画を代表する作品である。


 生の世界と死の世界は、明確に区別されて表現されている。死の世界の物や生物は透けているし、水の上にいても沈まないし、ドアもすり抜けてしまう。シェーストレームは、二重写しを駆使することによって、リアルでありながら、シュールな世界を映像化することに成功している。

 死神の使いの乗る馬車が、死者の魂を迎えに行くシーンの幻想性は、映像としての美しさに満ちている。単純に二重写しを使用するだけでは、こうはならない。海と馬車の組み合わせだったり、フードを目深に被る死神の使い(アメリカのプロレスラー、アンダーテイカーを思わせる)の造形だったりと、様々な工夫がされている。撮影のヤンソン共に、シェーストレームの計算と努力が感じられる。

 正直、二重写しを使用した映像表現だけでも、サイレント期を代表する作品の1つ言ってもいいくらいだ。ヴォードヴィルの出し物のようなエンタテインメントとして二重写しを駆使したジョルジュ・メリエスは、「霊魂の不滅」をどのように見ただろうか?ストーリーとマッチし、絶妙な雰囲気も生み出すシェーストレームの二重写しは、映画技術史にも1ページを残している。


 シェーストレームの描き出す世界は極端で独特だ。とことんまでの男女の愛を、「寒さ」という独特さで色付けした秀作「生恋死恋」(1918)も一例である。「霊魂の不滅」では、極端までに愚かな男が主人公だ。

 「馬鹿は死ななきゃ治らない」の格言の通り、ダヴィッドは死んで初めて自らの愚かさを知る。何の関係もないのにコートにツギをしてくれた救世軍の女性に対しは、コートを改めてボロボロにしてみせる。酔っ払うと、まるで「シャイニング」(1980)のジャック・ニコルソンのように、オノで扉を壊してみせる。

 そんなダヴィッドは、自らの死に至って、ようやく自分が他人に与えてきた苦しみと、その影響を知る。妻が子供たちと心中を決意したことを知り、ついにダヴィッドは心からの悔恨の涙を流す。


 人間の愚かさをとことんまで追い詰めて描いたのが「霊魂の不滅」だ。しかも、映画ならではの映像トリックを使って、幻想的で、怪奇的な雰囲気満載で描いてみせる。

 繰り返そう。「霊魂の不滅」はシェーストレームの、サイレント時代のスウェーデン映画の、そしてサイレント映画を代表する作品の1つだ。