映画評「豪傑児雷也」

 製作国日本 日活(京都撮影所)製作 監督 牧野省三 出演 尾上松之助

 日本最初の映画スターといわれる「目玉の松っちゃん」こと尾上松之助主演の作品。監督は、「日本映画の父」と言われる牧野省三

 講談本から題材を取った子供向けの活劇映画。CSの「時代劇専門チャンネル」で見たバージョンは、沢登翠による活弁つきでだったためストーリーがわかったが、活弁がなければまったくわからなかったことだろう。

 ストーリーがわからないことは、「豪傑児雷也」を見る上で、ほとんど妨げにはならない。なぜなら、「豪傑児雷也」の最大の見所は、立ち回りにあるからだ。14分上映時間の半分は立ち回りに費やされている。ジョルジュ・メリエス流のストップ・モーションを使ったトリック撮影が立ち回りに加わり、今では見ることのないエンタテインメント性を保持している。敵役が刀を振るうと、姿を消したり、大ガマ(ガエル)に変身したりといった変化に富んだ(あからさまに作り物のカエルはちょっと笑えるが、キッチュな魅力も持っている)立ち回りは、なぜ子供に人気を博したのかの理由がわかるように思える。

 私は、この映画を見ていて、ジョルジュ・メリエスを強く思い出した。メリエスが、「豪傑児雷也」のようにトリックとストーリーを融合させた作品を作る方向を突き進んでいたら、メリエスフィルモグラフィーはもっと違ったものになっていたのかもしれない。