フランス ジャン・エプスタンとフォトジェニー論

 フォトジェニー論を提唱したルイ・デリュックが、「さすらいの女」(1922)を製作・監督している。1人の女性がかつて立ち去った家に戻り、30年前を回想する物語である。セリフを凝縮し、演技やセット・衣装で語ったという。批評家には好評だったが、ヒットしなかった。

 そのデリュックが唱えたフォトジェニーの意味や特性を深く考究したとされる人物として、ジャン・エプスタンがいる。彼は、レンズで対象をとらえる映画は本質的に神秘的、超自然なものであり、その神秘こそがフォトジェニーの主要素であるとした。映画が非生命体に命を与えるという映画=アニミスム論もこうした考えの帰結であるとされている。

 エプスタンは映画についての文章を書いており、その中には次のようなものもある。

 「映画館で老紳士は妻に向かって、『この物語は何ともばかげているよ。ねえ、君』と繰返し話しかけている。その通りです、老紳士。スクリーン上で展開される物語はすべて馬鹿げている。本当に。それがすばらしいのです。感情が残っています」

 そんなエプスタンは、監督としても活躍した。この年、ジャン・ブノワ=レヴィと共同演出した短編セミ・ドキュメンタリー「パストゥール」(1922)を、25歳で発表している。

 フィクション場面に、顕微鏡撮影のシーンを加えて撮影された作品であり、政府の補助金を受けて作られた。撮影はパストゥール研究所と撮影所で行われ、研究所では実際に使われた実験装置も使えたという。