映画評「屠殺者」

 製作国アメリカ 原題「MANSLAUGHTER」 パラマウント・ピクチャーズ製作・配給
 監督・製作セシル・B・デミル 原作アリス・デュアー・ミラー 脚本ジャニー・マクファーソン
 出演レアトリス・ジョイ、トーマス・ミーガン、ロイス・ウィルソン

 当時の上流階級の人々の風俗を題材にした映画でヒット作を連発していた頃のセシル・B・デミル監督作。

 上流階級の生まれで、車での暴走やパーティでの狂乱に明け暮れるリディアは、リディアを愛する地方検事オバノンの忠告も聞き入れない。ある日車で暴走するリディアを追いかけてきた警官を、過失だが事故で死なせてしまったリディアは、刑務所に収監されることになり・・・。

 セシル・B・デミルの刻印が色濃い作品だ。1920年当時の狂乱を、退廃したローマ時代に結び付ける展開は、「男性と女性」(1920)を始め、多くのデミル作品に共通するものだ。「屠殺者」のローマ時代の描写は、多くのエキストラに演劇的な演技をさせ、絵画的な構図を取ることで、「過去の出来事」という印象を強くさせている。また、リディアが見る法廷を舞台にした悪夢では、ライトを床に置く不自然なライティングで、「悪夢感」を強く打ち出すなど、デミルの演出は工夫されている。

 贖罪をテーマにしたストーリーは、極端さを強調することで、飽きさせないものになっている。リディアは極端に享楽的で高慢だが、極端に反省する。オバノンは極端にリディアを愛するために、極端に酒に溺れていき、最後には極端に再浮上する(取ってつけたような展開とはこういうことを言う)。道徳劇なのであるが、正直作り手が映画内で語られるモラルを信じているようには感じられない。モラルはあくまでも建て前で、極端さによる作劇上の楽しさの方が先に立つ。

 レアトリス・ジョイは、デミルの同タイプの作品における大ヒロインだったグロリア・スワンソンと比べると地味だ。だが、自然な美しさ、自然な高慢さ、自然な後悔を見せ、スワンソンと一線を画している。

 デミルとマクファーソンのコンビネーションは見事だ。マクファーソンの語り口も、デミルの演出も、当時の多くの作品の中でも一級品の面白さだ。だが、面白さが先に立ってしまっている点が、小手先感が強い点が、今見る理由を小さくしているとも言える。


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