映画評「巨巌の彼方」

 製作国アメリカ 原題「BEYOND THE ROCKS」
 フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー製作 パラマウント・ピクチャーズ配給
 監督サム・ウッド 原作エリノア・グリン 脚本ジャック・カニンガム 撮影アルフレッド・ギルクス
 出演ルドルフ・ヴァレンティノグロリア・スワンソン、エディス・チャップマン、アレック・C・フランシス

 当時のパラマウントが誇る二大スターだったヴァレンティノとスワンソンが唯一共演した作品。フィルムは消失したと思われていたが、2005年に発見された。

 家族の財政のために、年老いた金持ちと結婚した美しいテオドラ。だが、テオドラは二度までも命を助けてくれた、若くてハンサムなヘクターに恋をしていた。高まる思いを何とか抑えようとするテオドラだったが・・・。

 当時の女流人気ロマンス小説家で、ヴァレンティノの売り出しにも一役買ったと言われるグリンの原作は、一言で言えばメロドラマだ。2度までも偶然命を助けてもらうという展開は出来過ぎだし、イギリス、パリ、スイス、サハラ砂漠と各国を巡る展開は、いかにもメロドラマだ。

 ヴァレンティノとスワンソンという2大スターが出演するメロドラマなのだから、大いに燃え上がるかと思いきや、意外とそうでもない。2人は互いの思いを高めつつも、表に出さないように努力している。特にスワンソン演じるテオドラは、夫を嫌っているわけではなく、むしろ夫に慈しみを抱いているように描かれている。

 後半のサハラ砂漠のシーンでは、テオドラとヘクターの思いを知ったテオドラの老いた夫が主役かのようだ。この自己犠牲もまた、いかにもメロドラマかもしれない。だが、浮足立ったメロドラマではなく、地に足がついたメロドラマだ。

 「巨巌の彼方」は大いなる、それでいて地味なメロドラマである。大スターが共演しているにも関わらず、それほどの知名度がないのは、フィルムが失われていたという事情もあるだろうが、それ以上に地味だからだろう。しかし、しっとりとした情感の込められたメロドラマだ。2人が出演した作品の中でも、上位に位置する情感がある。

 ヴァレンティノもスワンソンも、芸術家志向が強かったことで知られている。そんな2人の志向が、映画を地味にしたのかもしれない(キス・シーンすらない)。そうだとしたら、2人の共演は単に観客を呼ぶ以上に価値のあったことになる。


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