映画評「巌窟王」

 製作国アメリカ 原題「MONTE CRISTO」 フィックス・フィルム・コーポレーション製作・配給
 監督エメット・J・フリン 原作アレクサンドル・デュマ 脚本バーナード・マッコンヴィル
 出演ジョン・ギルバート、エステル・テイラー、ロバート・マッキム、ウィリアム・V・モング

 アレクサンドル・デュマが1840年代に執筆した「モンテ・クリスト伯巌窟王)」の映画化。売り出し中だったギルバートを主演にし、オールスター・キャストで映画化した大作である。

 船乗りのエドモン・ダンテスは、死に行く船長からエルバ島に流されていたナポレオンに手紙を渡すように依頼される。恋敵フェルナンと、エドモンの出世に嫉妬するダングラールに密告されたエドモンは、投獄されてしまう。10数年後、脱獄したエドモンは、「モンテ・クリスト伯」と名を変えて、復讐を開始する。

 ジョン・ギルバートが主演の作品だが、「ビッグ・パレード」(1925)などでブレイクする前ということもあり、スターというよりは、忠実にエドモンを演じる役者という印象を受ける。ギルバートの魅力の1つに、情熱を全面に出した熱い演技があるが、「巌窟王」ではむしろ熱い思いを胸に秘めた役柄を、堅実に演じている。

 しっかりとした演技、しっかりとしたセット、しっかりとした衣装などに支えられ、非常にストレートにストーリーを追う作品として作られている。物語の持つ強さがきっちりと伝えられるように作られている。欲を言うと、きっちりと作られているだけで、遊びがないのが少しさみしい。二重写しを随所に使い、エドモンの帰りを待ち焦がれる父の心情、復讐を心に秘めたエドモンの心情などが表現されているものの、少し寂しい。

 とはいえ、壮大な原作を、誠実に映像化しようという意思は強く感じられる作品だ。小説に取り込み、小説を超えようという誠実な努力。それが、映画を着実に一歩ずつ前に進めたことは間違いない。