映画評「北極無宿」

　製作国アメリカ　原題「THE FROZEN NORTH」
　ファースト・ナショナル・ピクチャーズ製作　アソシエイテッド・ファースト・ナショナル・ピクチャーズ配給
　監督・脚本・出演バスター・キートン　監督・脚本エドワード・Ｆ・クライン　出演ジョー・ロバーツ、シビル・シーディ

　北極を舞台に、悪漢のキートンが強盗を働き、妻を虐待し、他の女性を追い回す・・・・が、すべては映画館で眠ってしまったキートンの夢だった。

　北極という舞台がうまく使われている。特に、犬ぞりを高級タクシーに見立てたり、警官がタイヤの代わりにスキーがついた乗り物を白バイのように乗り回したりという乗り物のギャグがうまい。

　その他にも、夢であることを利用して、普段のキートンの短編では見られないギャグもある。たとえば、家に帰ったキートンが、妻が他の男性といちゃついているのを見て２人を射殺してしまう。だが、よく見ると妻ではなく別人で、家を間違っていたというようなギャグだ。

　ポスターの銃を構えた男の部分を切り取り、カジノの窓際に立たせて人々に銃を向けているように見せて、その隙にキートンが金を奪おうとするギャグ、雪が積もっているのに「芝生に入らないで」という看板が立っている場所をキートンが気をつけて歩くギャグなど優れたギャグが満載だ。

　それ以外にも、シリアスな映画のパロディも見られる。西部劇で「グッド・バッド・マン」を演じて人気を得ていたウィリアム・Ｓ・ハートをパロって大粒の涙を流して見せたり（ハートは「北極無宿」を見て激怒したらしい）、女性にいやらしく迫るシーンでは「愚なる妻」でシュトロハイムが演じた偽伯爵の姿に変身して見せる。

　「北極無宿」は、いつものキートンの短編映画にはない残酷なギャグや、他のパロディを配した異色の作品といえるだろう。

【関連記事】
バスター・キートンの短編映画製作

バスター・キートン THE GREAT STONE FACE DVD-BOX 【初回生産限定】

バスター・キートン短篇全集 1917-1923 [DVD]