映画評「成功成功」
製作国アメリカ 原題「DAY DREAMS」
ファースト・ナショナル・ピクチャーズ製作 アソシエイテッド・ファースト・ナショナル・ピクチャーズ配給
監督・脚本・出演バスター・キートン 監督・脚本エドワード・F・クライン 出演ルネ・アドレー
自分が愛する女性を養っていけることを証明することを恋人の父親に約束し、キートンは様々な職業につくが失敗を繰り返す。
キートンらしいアクロバティックな動きと、シチュエーションや装置をうまく使ったギャグが詰め込まれた好篇だ。
動物病院、ウォール街の路上の清掃係と職業を変えると共に、徐々にギャグのペースを上げていく。路上の清掃係のシークエンスでは、選挙の候補者のために巻かれた紙テープを捨てるのが面倒くさくなって燃やそうとすると、火が候補者のところまで回ってしまう。火を消そうと水を撒くが勢いが強すぎて周りが水浸しになってしまうという一連のギャグが秀逸だ。チャップリンならば意識的に反権力的な意味合いを込めるところだろうが、キートンの映画では反権力的なものよりも、火と水を使ったスラップスティックの面白さが優先される。
最後に舞台俳優につくシークエンスでは、ギャグの洪水がトップギアへと入る。マネキンのフリをして警官を煙に巻くギャグは、「案山子」(1920)の頃からのキートンお得意の芸だ。さらには、大量の警官に追いかけられるという「警官騒動」(1922)でも見せた展開へとつながっていく。
大量の警官に追われるシーンでは、サンフランシスコの市電をうまく使っている。やっと逃げ切ったキートンが無人の市電に乗ろうとすると、市電の陰に隠れていた何十人もの警官がニュッと姿を現すシーンはギャグでもあり一方で、ホラー映画でおなじみのサプライズの効果も挙げている。続いて、汽船に逃げ込んだキートンが、船のホイールに入り込んでしまい、ハムスターのように一生懸命走る羽目に陥るというギャグにつながる。
全体としてはブラック・ユーモアも多い。動物病院のシーンではキートンが手術に失敗したことが暗に示されるし、海に落ちたキートンを釣り上げた老人は、キートンを餌にしたさらに大きい獲物を狙おうとキートンに針をつけて海に投げ込む。さらには、すべてに失敗したキートンを、恋人も恋人の父親も見放して、拳銃で自殺させようとする。
こういったブラック・ユーモアが映画を暗くせずに、なぜかキートン映画を魅力的なものにしているように感じられるから不思議だ。それはひとえに、あらゆる災難を表情も変えずに乗り越えてしまうキートンのキャラクターにあるのだろう。そして、それを支える体技とアイデアにあるのだろう。
キートンの映画はチャップリンの映画のように、ウェットになることはない。それは、キートンがキートンである限りそうなのだろう。この映画はそのことを実感させる。
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