映画評「むかしむかし」

 製作国デンマーク 原題「DER VAR ENGANG」 英語題「ONCE UPON A TIME」

 監督・脚本・編集カール・ドライヤー 製作ソフス・マッセン 原作ホルガー・ドラックマン

 脚本パレ・ローセンクランツ 撮影ゲオー・スネーヴォイト 出演クララ・ヴィート、スヴェン・メトリング

 架空の国イリヤの王女は、美しいが傲慢だった。デンマークの王子はイリヤの王女に求婚するが拒絶される。だが、王女を手に入れることができる魔法のヤカンをもらった王子は、乞食になりすまして再び王女の元を訪れる。

 1880年代に書かれたドラックマンによる戯曲を元にした作品。戯曲は大成功を収め、国民的な作品と言われた。当時、不振に陥っていたデンマーク映画界のために、興行者でもあったマッセンによって「デンマークらしい映画」として製作されたという。ドライヤーは監督者として参加し、厳しい製作日程の中、撮影が行われたという。不完全にしか残っておらず、私が見たのも、欠落部分を字幕やスチール写真で補ったバージョンである。

 金持ちの王女と王子が、貧しい生活を送る羽目に陥り、そこで真実の愛を知るという展開は、シェイクスピアの「じゃじゃ馬馴らし」から取られているという。豪奢で明るい前半と、貧しく暗い後半の対比が際立っており、ドライヤーの監督としての腕前を感じさせる。何が現実なのか、王女と王子が何者なのか分からなくなっていく展開など、大人のおとぎ話とも言える展開の妙も見事だ。

 それでも物足りなさを感じてしまうのは、あくまでも良く出来ているに過ぎないからなのか、それとも完全版ではないからなのか・・・。