セシル・B・デミルの旋回「十誡」

 セシル・B・デミルは、それまでも多く監督してきたセックス・アピールを売り物にした「アダムス・リブ」(1923)を監督した。だが、その後デミルは内容を大きく旋回した作品を監督している。モーゼの十戒の話と、十誡を破ってやるとうそぶく現代の男性の破滅の話を組み合わせた「十戒」(1923)がそれだ。

 デミルが監督してきたセックス・アピールを売り物にした作品は、最終的には道徳的で保守的だった。個人的にも保守的だったデミルは、批評家に叩かれることを気に病みながら、大衆向けの作品を製作していた。高まるハリウッドの風俗への批判に対して設立されたMPPDAにもデミルは尽力したし、MPPDAのボスだったウィル・ヘイズとは親しく交際していた。

 そんなデミルが、セックス・アピールを売り物にした男女ドラマから転換を図って製作したのが、「十誡」である。実際は、現代編では絵に描いたようなヴァンプが登場するなど、随所にセックス・アピールを織り込んでいる。だが、デミルは聖職者や専門家らに監修してもらい、お墨付きをもらうといった予防線を張ることを忘れなかった。

 「十誡」は、デミルが新聞を使って1千ドルで企画を募集し、その中に上がった企画の1つだった。採用を決めたデミルは、作品を「出エジプト記篇」と「現代篇」に分けることにした。予算は70万ドルだったが100万ドルを越え、パラマウントから注文がついた。だが、デミルは自力で100万ドルを集めるといい、パラマウントが折れる形となった。最終的な製作費は約180万ドルとなったという。

 巨大な野外セットが建設され、大人数のエキストラが投入された撮影の際には、拡声器とマイクを直結する技術を導入し、2キロ離れた場所まで声が届くようにしたという。また、二色式テクニカラーを使った戦車の突入場面も撮影されている。

 批評家の中には「神」を興行の道具に使ったと批判する人もいたが、公開すると興行収入は400万ドルを超え、パラマウントのそれまでの記録を抜く大ヒットとなった。

 デミルはこれ以後、スペクタクルを売り物とする映画を中心に、聖書映画や社交界劇といった幅広い映画を製作していくことになる。

 そんなデミルについて、ジョルジュ・サドゥールは「世界映画全史」の中で、次のように書いている。

 「彼は、巨大な資金というテクニックを投入しながら、無理することなくあらゆるジャンルに接近するアメリカ映画の興行師であった」


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無声映画芸術の成熟―トーキーの跫音1919‐1929 (世界映画全史)

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