「ノートルダムのせむし男」 ロン・チェイニーの真骨頂

 後に「フリークス」(1932)という問題作を監督するトッド・ブラウニングは、インドシナ半島で麻薬の王国を築き上げた麻薬の女王の冒険物語である「妖雲渦巻く」(1923)や、ヨーロッパからやってきた詐欺師集団の物語「白虎」(1923)などを監督していたが、次第にアルコールに溺れるようになっていた。「ノートルダムのせむし男」の監督を下ろされたブラウニングは、1923年末に所属していたユニヴァーサルから解雇される。

 ウォーレス・ウォースリー監督のヴィクトル・ユゴー原作「ノートルダムのせむし男」(1923)は、トッド・ブラウニングが監督を降ろされ、エーリッヒ・フォン・シュトロハイムの「メリー・ゴー・ラウンド」(1923)の製作にまで影響を与えた作品である(「ノートルダムのせむし男」に製作費をかけるために、シュトロハイムは「メリー・ゴー・ラウンド」の監督を降ろされたと言われる)。

 125万ドルをかけられた大作で、ロン・チェイニーが主人公のカジモドに扮した。チェイニーは、葬儀社の使うワックスで鼻、ほほ、片目を覆い、グリースを濃く顔に塗った。さらに、歯にはワイヤを入れて大きな入れ歯を目立たせ、肩をパッドで膨らませて真っ直ぐ立てないようにし、背中に詰め物を入れて演技をしたという。また、寺院の壁面をよじ登るシーンもスタントなしで演じた。

 日本では赤坂演技座で6月に5日間特別公開した後、秋まで一般の映画館では上映させないという鳴り物入りの興行だった。

 ちなみに、この作品の助監督の中にはウィリアム・ワイラーの名前もある。

 チェイニーは、20年代に入ってアメリカで盛んに作られるようになったホラー映画の、最初にして最高のスターと言われている。両親が聾唖者のため、幼い頃から身振り手振りで意思を通じ合わせた経験が、パントマイム演技に役に立ったと言われる。トッド・ブラウニング作品の常連として、手のない芸人、目や足が片方しかない人物、女装の泥棒といった一風変わった役柄を演じて、その演技力を見せ付けた。

ノートルダムのせむし男 FRT-301 [DVD]

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