少女役から脱皮できないメアリー・ピックフォードの苦しみ

 アメリカを代表する女優として活躍していたメアリー・ピックフォードだったが、30歳を超えたこの頃になっても、少女の役ばかり演じていた。大人の女優への脱皮を図りたいと考えていたピックフォードは、1923年に演じて欲しい役柄をファンから募集していみたが、結果は「シンデレラ」「赤毛のアン」「ハイジ」「不思議の国アリス」といった少女役ばかりだったという。当時は、ジャズ・エイジの最中で古いしきたりが消えていった時代であった。だが、新しい世代は新しいスターを求めており、ピックフォードの脱皮の思いは受け入れられなかった。

 ピックフォードのファンたちは、思春期前の少女に対する憧憬を持った人々であった。ピックフォードを見い出したD・W・グリフィスはロマンティストで、ピックフォードのファンたちは19世紀から抜けていない労働者階級の人々だった。

 この出来事は、大衆がスターに求めるイメージと、スター自身がなりたいイメージとギャップという、この後も多く見られることになるパターンの最初期の例と言えるだろう。

 そんなピックフォードに対して、アレグザンダー・ウォーカーは「銀幕のいけにえたち」で、次のような言葉を送っている。

 「人びとはふつう、自分がスクリーンで見たものを覚えてはいない。覚えているのは、覚えておきたいものである−そして、このことが、こんどは逆に、見たいものをきめてしまう。こうして、イメージがかたちづくられ、伝説がふくらんでゆく」

 そんなピックフォードの苦しみは、作品にも表れている。ドイツ映画界で活躍していたエルンスト・ルビッチを監督として招いて「ロジタ」(1923)を製作したのがそれだ。

銀幕のいけにえたち―ハリウッド・不滅のボディ&ソウル (1980年) (本の映画館/ブック・シネマテーク〈3〉)

銀幕のいけにえたち―ハリウッド・不滅のボディ&ソウル (1980年) (本の映画館/ブック・シネマテーク〈3〉)