中産階級の上昇志向 ハルロド・ロイドの「要心無用」

 チャールズ・チャップリンバスター・キートンと並ぶサイレント期の三大喜劇王と言われたハロルド・ロイドは、最初の大ヒット作である「要心無用」(1923)に出演している。デパート店員のロイドは、恋人と早く結婚したかったが、給料が安く生活は苦しかった。その頃、彼の働くデパートでは集客のアイデア募集に1000ドルの懸賞金がかけられ・・・という内容の作品である。

 ロイドが実際に見た、一人の人物が建物の壁をよじ登る姿からアイデアを得て作られた作品である。ロイドが目撃した壁を登っていた人物を雇い、壁を登る脚本を考えたという。 典型的な中産階級の上昇志向型で、向こう見ずで抜け目がないロイド演じるキャラクターがビルを登るシーンは、「上をめざす」ことを風刺しているとも言われている。

 ロイドはそれまで、チャップリンのキャラクターの模倣とも言える作品を送り出していたが、平均的なアメリカ人を演じて人気を得ていくことになる。ジョルジュ・サドゥールは、ロイドが演じたキャラクターについて、「感傷的であるが、感受性を欠いており、臆病だが無謀なまでに強情である」と書いている。 

 サイレントのコメディというとスラップスティックが想像されがちだが、「要心無用」は動きとアイデアのバランスが取れた作品とも言える。当時、コメディの長編化が進んでおり、スラップスティック一辺倒の内容で長編をもたせることは難しかった。「要心無用」では、ビルを上る場面に7巻中3巻を費やし、アクション・ギャグをここに集中させている。

 他にもロイドは「巨人征服」にも出演。私生活では、相手役を務めていたミルドレッド・ハリスと結婚している。


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