フランス アベル・ガンスの超大作「鉄路の白薔薇」

 フランスを代表する映画監督となっていたアベル・ガンス監督の、「鉄路の白薔薇」(1923)が公開されている。製作に2年、製作費200万フランがかかった超大作である。娘として育てた血のつながっていない娘への愛情に悩む老機関士の心情を描いた作品である。

 ガンスは実験精神に溢れた監督で、機関士の心情を描くために用いられたフラッシュ・バックが話題になった。フラッシュ・バックは短いショット(短いものは1コマ)を交錯させるという手法である。

 構成も工夫されており、前篇を「黒の交響楽」、後篇を「白の交響楽」と名づけている」。「黒の交響楽」では機関車の黒い車体や煙などを使って暗く構成しており、内容的にも人間の暗い面を描いている。「白の交響楽」では、舞台もモンブランに移り、雪山の白一色の明るい画面となり、内容的にも登場人物たちが幸せを取りもどすための物語が、ゆっくりと描かれる。テンポ的にも、リズムの速い前篇と、ゆったりとしたリズムの後篇となっている。黒と白の画面のコントラスト、内容の暗と明、リズムの緩急が見事に対になった作品である。映画独自の要素を重視した作品として、当時フランスで興った前衛映画「純粋映画」の1つと言われることもある。

 ちなみに、当初の上映時間は6時間23分であったが、後にガンス自身が再編集して2時間33分にまとめられている。日本には6時間23分版が輸入されたが、劇作家の小山内薫が再編集して短縮版を完成させたという。キス・シーンなどは検閲でカットされた。

【関連記事】
映画評「鉄路の白薔薇」


鉄路の白薔薇(上巻) [VHS]

鉄路の白薔薇(上巻) [VHS]

鉄路の白薔薇(下巻) [VHS]

鉄路の白薔薇(下巻) [VHS]