映画評「十誡」

製作国アメリカ 原題「THE TEN COMMANDMENTS」
パラマウント・ピクチャーズ製作・配給 フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー・コーポレーション製作

監督・製作セシル・B・デミル 脚本ジャニー・マクファーソン 編集アン・ボーチェンズ 美術ポール・アイリブ
撮影バート・グレノン、ペパーレル・マーレー、フレッド・ウェスターバーグ、アーチー・スタウト、レイ・レナハン 
出演テオドラ・ロバーツ、シャルル・ド・ローシュ、エステル・テイラーリチャード・ディックスロッド・ラ・ロックレアトリス・ジョイニタ・ナルディアグネス・エヤーズチャールズ・ファレル


 モーゼの十戒の話の前篇と、現代を舞台にした後編に分かれた作品。現代を舞台にした後半では、十戒を信じない男が悪事に走り、最後には報いを受けるというストーリーになっている。

 当時デミルは、中流階級の男女を主人公にしたセックス・アピールが売り物のメロドラマでヒットを飛ばしていたが、内容に対しての批判を多く受けていた。ロスコー・ファッティ・アーバックル事件などにより、ハリウッド全体への批判も高まってきたこともあり、デミルは一般からアイデアを募り、「十戒」の映画化を採用したと言われている。

 1956年にデミル自身がリメイクすることになるモーゼの話は、約135分の全編に対して45分しかない。ストーリーはかなり簡略化されているものの、その分圧縮されてスピーディな展開となっているとも言える。後にデミルの代名詞ともなる、スペクタクル・シーンは見事だ。D・W・グリフィスの「イントレランス」(1916)で建設されたバビロンのセットをしのぐとも言われたエジプトのセットは壮大。モーゼたちを殺そうと追いかけてくる無数の馬車も見所になっている(途中で転ぶ馬車が続出して、それが見所にもなっているが、予想外の事故だったのだという)。

 モーゼの話の最大の見所は、リメイク作と同じように紅海が割れるシーンだろう。ゼラチンを使ってミニチュアで撮影されたシーンに、割れた海の間を歩く人々を合成したこのシーンは、見事な出来栄えだ。個人的には、1956年版の「十戒」よりも、こちらの方が優れているように感じられた。それは、モノクロでサイレントのこちらの方が、非現実的とも言えるシーンの描写に適しているからではないかとも思う。

 現代篇は、「十誡」以前にデミルが監督していたセックス・アピールを売り物にしたメロドラマの、教訓部分を強くした内容といえるものになっている。十戒を信じないダンの妻であるメアリーや、愛人であるサリーは、それほど強烈にではないが、セックス・アピールを醸し出しているし、不道徳なダンが報いを受けるという展開は、それまでのメロドラマも同じだ(度合いが違えども)。また、現代篇でも、建設中の教会の壁の崩壊はスペクタクルの魅力に溢れている(ダンは教会の壁に使うセメントをケチって儲けていたのだ)。

 デミルは、「十誡」」以降はスペクタクル、特に歴史スペクタクルを得意としていくと言われるが、実際には以前から歴史ものに取り組んでいた。デミル本人は、メロドラマよりも歴史ものを続けたかったが、コストのかかる歴史物よりも安上がりなメロドラマを会社側が望んだため、致し方なくメロドラマを作ったと述べている。実際のデミルの気持ちがどうだったかはわからないが、「十誡」以前から歴史ものを監督していたことは間違いない。

 「十誡」は、歴史物とメロドラマというデミルがすでに慣れ親しんでいた分野に、「宗教」という要素を加えて作られた作品である。後年の大家となったデミルが、思う存分モーゼを描いて見せた「十戒」と異なり、1923年の「十誡」は宗教に対して、どこか及び腰だ。出エジプト記だけで商売になるかどうかを見極めきれていないかのような印象を受ける。

 結果として「十誡」は話題を呼ぶことになる。デミルは勝負に勝つ。そして、勝ったことによって得た自信やノウハウを次へとつなげていく。デミルのしたたかさが、「十誡」から感じ取れる。


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