映画評「メリー・ゴー・ラウンド」

製作国アメリカ 原題「MERRY-GO-ROUND」 ユニヴァーサル・ピクチャーズ製作・配給

監督ルパート・ジュリアン 製作アーヴィング・サルバーグ 脚本ハーヴェイ・ゲイツ、フィニス・フォックス 撮影チャールズ・E・カウフマン、ウィリアム・H・ダニエルズ

出演メアリー・フィルビン、ノーマン・ケリー、ケーザー・グラヴィナ、イーディス・ヨーク


 伯爵のフランツは、皇帝が決めた結婚を目前に控えているが、気が進まない。ある日、遊園地のメリー・ゴー・ラウンドで働くアグネスに出会い、惹かれる。身分を隠してアグネスに近づいたフランツは、最初は遊びのつもりだったが、徐々に本気で愛していくようになる。

 クレジットされていない人物によって有名な作品である。その人物の名前はエリッヒ・フォン・シュトロハイムだ。「愚なる妻」(1921)で多額の製作費を使用したシュトロハイムは、プロデューサーのサルバーグと対立した。「メリー・ゴー・ラウンド」撮影にあたって、シュトロハイムは予算内でスケジュール通りに撮影するという条件を受け入れたが、サルバーグはシュトロハイム以外の人物を主演とすることで、途中での主演者の交代による撮り直しのリスクを避ける保険をかけていた。結果、撮影が遅れ、費用もかさんだのを見たサルバーグは、シュトロハイムをクビにしたのだった。

 シュトロハイムが撮影した中で、現在でも見ることが出来る部分は、序盤の伯爵が怠惰な生活を送っている描写だけだという。「愚なる妻」や「グリード」(1924)の演出を見ると、遊園地のボスがアグネスをいじめるシーンなどで、シュトロハイムの陰険な演出も見てみたかった。

 シュトロハイムのオリジナルと言われるストーリー(クレジットされていない)も、監督がジュリアンに変わった段階で改訂されたと言われる。果たしてハッピー・エンドだったのかも不明だ。結果、「メリー・ゴー・ラウンド」はマイルドなメロドラマに仕上がっている。

 ジュリアンの演出は丁寧だ。人物の感情を露骨に表情に出させており、特にフィルビンとケリー演じる伯爵とアグネスは、少しオーバー・アクトな気もするが、サイレント映画の世界では許容範囲と言えるだろう。アグネスを愛するせむしの男、アグネスの父親、オランウータンなど、脇役の個性も強く、ドラマに彩りを加えている。

 おそらく、「メリー・ゴー・ラウンド」は、シュトロハイムが望んだ作品ではないだろう。こんなに甘いメロドラマを作る人物ではない。次に手がける「グリード」を見ても、それはよく分かる。だが、同時期に作られたメロドラマの中でも、上質な部類に入ることは確かだ。その意味で、「メリー・ゴー・ラウンド」は、シュトロハイムの作品として考えると物足りないものの、メロドラマとしては優れた作品と言える。だが、見る人はみなシュトロハイムの名前に惹かれて見ることだろう。「メリー・ゴー・ラウンド」の不幸がそこにある。