映画評「幌馬車」

製作国アメリカ 原題「THE COVERED WAGON」
フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー・コーポレーション製作 パラマウント・ピクチャーズ製作・配給

監督ジェームズ・クルーズ 製作ジェシー・L・ラスキー 原作エマーソン・ハウ 脚本ジャック・カニンガム 撮影K・ブラウン 編集ドロシー・アーズナー 衣装ハワード・グリア 

出演J・ウォーレン・ケリガン、ロイス・ウィルソン、ジョニー・フォックス、アーネスト・トレンス、タリー・マーシャル


 西部へと向かう幌馬車の大部隊。道中では、ネイティブ・アメリカンによる襲撃、大河川の横断、飢えとの戦いが繰り広げられる。さらには、主人公とヒロインと悪役による恋の鞘当てや、カリフォルニアで金が発掘されたというニュースを聞いてうごめく人間の欲望が描かれる。

 西部開拓を東部からの出発から西部への到着までを描いたスケールの大きい西部劇。ヒーローとヒロインと悪役という三角関係、ネイティブ・アメリカンの襲撃、大自然との闘い、コメディ・リリーフ的な登場人物の存在など、この後の西部劇での繰り返し描かれていく要素が詰め込まれた作品と言える。


 ストーリー展開上、バニオンという役名のヒーロー役の主人公はいるのだが、影は薄い。バニオンにかけられた牛泥棒の嫌疑が晴れたことを知らせなければいけないが、酔っ払わないと思い出せないというコメディ・リリーフ的な役柄であるジム・ブリジャー(実在の人物だった。映画公開後、遺族が名誉を傷つける描き方をしたとして提訴している)も映画に豊かさをもたらしているが、強い印象を残すほどではない。

 最も印象に残るものは、風景である。たとえば、幌馬車隊の行列。延々と続く幌馬車隊の長さは、画面内には収まらないほどで、規模の大きさを一目で分からせてくれる。またたとえば、大河を渡る様子。馬だけではなく、牛も使って幌馬車を引っ張るその様子は、まだ橋が整備されていなかった開拓時代の様子を伝えてくれる。餓えた幌馬車隊のメンバーが、バッファローの群れを見つけて狩りをする様子もまた同様だ。

 これらのシーンは、この後の西部劇にも受け継がれるものである。そして、「ダンス・ウィズ・ウルブス」(1990)など、この後の西部劇の方がより効果的に描写しているものもある。だがそれでも、これらの西部の風景を映画に焼き付けようという意思が、「幌馬車」には感じられる。


 叙事詩的とも言えるこの試みは、決して偶然ではなさそうだ。それは、製作を担当したラスキーが、当初は別の監督を予定していたのを、ユタ州出身で西部に詳しいジェームズ・クルーズに変更したというエピソードからも伺える。ちなみに、ネイティブ・アメリカンに襲われるという、これもこの後の西部劇でも繰り返し描かれるエピソードも、悪役の男がネイティブ・アメリカンに橋渡しをしてもらった代金を払わないで殺してしまうという理由付けがされている。単純にドラマを盛り上げるためではないネイティブ・アメリカンの描き方にも、単純に見るものを楽しませるだけの西部劇とは一味違ったものにしようという意思が感じられる。


 「まるでドキュメンタリーを見ているような気分になってくる」と当時の雑誌に評されたという「幌馬車」は、その後に作られる西部劇よりも、西部の再現を目指しているように思われる。それは、「幌馬車」の編集技術が、見るものを興奮させることを追及したものではないということもあるだろう。幌馬車の行列も、幌馬車の渡河も、バッファロー狩りも、その後に作られる西部劇と比べると、その様子を「見せつける」というよりは、「眺める」という感覚を与える。


 叙事詩的な作品となっている「幌馬車」が犠牲にしているものもあることは書いておかなければならないだろう。平板なドラマは盛り上がりに欠けるし、アクションに溢れたシーンで見るものをハラハラさせることはない。まだ、西部開拓時代が現在よりも近かった当時の人々と比べて、今の私たちが見ると楽しめる要素が少ないことは確かだと思われる。


 それでも、「幌馬車」の試みは、西部劇が単なる勧善懲悪の枠組みとしてだけではなく、「西部開拓」という出来事そのものが、ただそれだけでも興味深いものであることを、「映画」として成立することを教えてくれる。


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