映画評「白虎」

製作国アメリカ 別題「ホワイト・タイガー」 原題「WHITE TIGER」 ユニヴァーサル・ピクチャーズ製作・配給

監督・脚本トッド・ブラウニング 脚本チャールズ・ケニヨン

出演プリシラ・ディーン、マット・ムーア、レイモンド・グリフィス、ウォーレス・ビアリー、アルフレッド・アレン


 ロンドン。犯罪仲間ホークスの裏切りによって父親を殺されたシルヴィアとディックの兄妹。シルヴィアはそのことを知らずホークスによって育てられ、ディックは1人で育った。15年後、共に犯罪者となったシルヴィアとディックは、偶然の出会いを果たすが、互いに兄妹であることに気づかない。


 当時ヒット・メーカーだったトッド・ブラウニングによる、多くの作品でコンビを組んだプリシラ・ディーンを主演に据えて作られた作品。当時のユニヴァーサルは、通常作、低予算作、特作に作品を分けており、「白虎」が特作である「ユニヴァーサル・ジュエル」として作られていることからも、ブラウニングとディーンへの期待が分かる。他のブラウニング作に多く出演しているロン・チェイニーは出ていない。

 ディーンが得意とし、人気もあったという女性犯罪者シルヴィアと、レイモンド・グリフィス演じるどこか屈折した暗さが漂うディックと、根っからの犯罪者といった雰囲気のウォーレス・ビアリー演じるホークスのトリオは、互いに信頼出来ない微妙な関係が滲み出ていて面白いものの、最終的に大メロドラマに収斂してしまうのは残念だ。


 3人のキャラクターやストーリーよりも、印象に残るのは「チェス人形」だろう。機械正面の扉を先に左、次に右を開き、中にはぜんまい仕掛けの機械があるだけで他にも何もないことを見せる。実際には、左の扉を開けたときは右に、右の扉を開けた時には左に人が移動してごまかしていたのだった。ブラウニングは、こうした細かい部分まで見せるこだわりを見せている。

 機械の中に人間が入って操作する「チェス人形」は、18世紀に実際に作られて人気を得たものである。ハンガリーの発明家が、ハプスブルグ家の当主マリア・テレジアを喜ばせるために作成されたものだという。映画の舞台は20世紀と思われるので、古い機械をわざわざ持ちだしてみせたところに、カーニバル上がりの映画監督トッド・ブラウニングの嗜好が感じられる。他にも、蝋人形館を舞台にするところにもブラウニングらしさが感じられるが、こちらはあまり細かいところまで描かれていない。

 「白虎」は、エンタテインメントとしてはそれほどの出来ではないかもしれない。だが、ブラウニングらしいこだわりが、他の作品と大きく区別する記号となっている。「チェス人形」は、単なる大仰でキッチュな見た目だけではなく、途中の扉を開けて見せる部分も含めて、機械と人間が一体となって演出されて成立するエンタテインメントだ。それは、どこか映画にも通じるものがある。