映画評「大地震」

製作国アメリカ 原題「THE SHOCK」 ユニヴァーサル・ピクチャーズ製作・配給

監督ランバートヒルヤー 製作カール・レムリ 原作ウィリアム・ダドリー・ペリー 脚本チャールズ・ケニヨン

出演ロン・チェイニー、ヴァージニア・ヴァリ、ジャック・モワー、ウィリアム・ウェルシュ


 犯罪組織に属している、足に障害を持つディリング。ディリングは、彼に優しくしてくれるガートルードに親愛の気持ちを抱くようになる。ディリングが属する犯罪組織の女ボスは、銀行の支店長をしているガートルードの父をゆすっていた。ガートルードの父が銀行の金を使い込んでいることを知ったディリングは、証拠を消そうとする。

 当時のユニヴァーサルは、製作費などから作品を3段階に分けて配給していた。「大地震」はその中でも一番高い等級の作品として作られた作品である。終盤の地震のシーンのスペクタクルが理由の1つでもあるが、当時のチェイニーがスターだった証拠といえるだろう。

 犯罪組織に属しながらガートルードへ親愛の気持ちをいだくディリングの役を、チェイニーは(いつものように)見事に演じてみせる。ガートルードに婚約者がいることを知って落ち込む姿は憐れを誘う。その婚約者に、「大事にしないと、ただじゃおかないぞ」と凄んで見せる姿はディリングのダークサイドを覗かせる。足が悪い演技はおまけのようなものだ。そんなギミックがなくとも、チェイニーは一級品である。

 大地震の特殊撮影も見事だ。ミニチュアのシーンは「良くできている」という印象だが、地面が盛り上がったり、家屋が倒壊する様子を室内の側から描いたりといったシーンは、迫力に溢れている。実際のセットを壊して、その中に俳優たちもいることから生まれる迫力は、現在の美麗だがどこか作り物めいた迫力とは異なる魅力に満ちている。

 ストーリーは複雑だが、深みがあるわけではない。偶然の地震による解決も安易だ。ディリングが立つことができるようになるラストは、「取ってつけたような」という言葉がしっくりくる。だが、「大地震」はチェイニーの演技の魅力と、大地震のシーンを見所とした、多くの観客に見てもらうことを最大の目的とした映画である。その部分が堪能できる作品なのだから、あまり細かいところを突っつくのはやめよう。

 チェイニーが出演する日本で手軽に見ることができる作品の中に、メイクアップに頼らない作品がないのは残念だ。「ノートルダムのせむし男」(1923)や「オペラの怪人」(1925)では、チェイニーがどんな顔なのか分からない。チェイニーの哀愁を帯びた表情の魅力を、ほとんどの日本人は知らない。