映画評「売られ行く魂」

製作国アメリカ 原題「SOULS FOR SALE」
ゴールドウィン・ピクチャーズ・コーポレーション制作・配給

監督・脚本・製作ルパート・ヒューズ
出演エレノア・ボードマン、フランク・メイヨ、リチャード・ディックス

 結婚詐欺師に騙されて結婚し、田舎からカリフォルニアに向かう列車から逃げ出したメムは、砂漠で行き倒れになってしまう。そこに映画撮影に来ていたロケ隊に助けられたメムは、ハリウッドへやって来て女優への道を歩き始める。

 スキャンダルにより世間からの批判を浴びていたハリウッドを描いた内幕物である。とは言っても、ハリウッドに対して批判的な視線を向けた作品ではなく、どちらかというと温かい視線を注いだロマンスとなっている。「グリード」(1924)を撮影中のエリッヒ・フォン・シュトロハイムや、「巴里の女性」(1923)を撮影中のチャールズ・チャップリンを始めとして、多くの映画関係者が登場するのも、夢の世界としてのハリウッドを、ひいては映画界に好意的な作品だからだろう。

 これまでにも映画撮影の舞台裏を描いた作品は多く作られていた。特に短編コメディの世界では撮影所をめぐるドタバタが、チャップリンの初期作品にも見られるように、多く作られた。だが、1人の女性がスターになっていく様子を、恋愛を絡めつつも丹念に描いている点で、それまでにはない作品となっている。

 元夫の部分以外は、ルドルフ・ヴァレンティノの「シーク」(1921)などのパロディも含めて、常に映画との接点を保っている。ハイライトはメムが初めてカメラ・テストを受けるシーンだろう。グロテスクな演技を見せるメムの姿は、見ていて辛くなるほど痛々しい。このシーンは、メムを演じるボードマンの、わざとヘタに見せる演技の賜物でもある。短いカットをつなげたヒューズのアクション・シーンの演出も、ラストのサーカス会場の火事になる演出もスムーズだ。

 ハリウッドを舞台にした、非常に軽やかなラブ・ロマンスだ。丹念に舞台裏を描いた作品としても貴重だし、多くの同時代の映画人が登場している点でも貴重な作品である。そして何よりも、批判を浴びていたハリウッドが、ハリウッドを守るためにこうした作品を作って見せる事自体が面白い。少なくともハリウッドの映画人は、ハリウッドが大好きだったことが伝わってくるかのようだ。