映画評「臨時雇の娘」

製作国アメリカ 原題「THE EXTRA GIRL」
マック・セネット・コメディーズ製作 アソシエイテッド・エキジビターズ、パテ・エクスチェンジ配給

監督F・リチャード・ジョーンズ 製作・脚本マック・セネット 脚本バーナード・マッコンヴィル

出演メイベル・ノーマンド、ラルフ・グレイヴス、ジョージ・ニコルズ、アナ・ドッジ、ヴァーノン・デント

 女優に憧れるスーと、隣に住むデイヴは幼馴染。スーは父親が決めた結婚を嫌がり、応募していたコンテストに受かったことを知り、ハリウッドへと向かう。だが、別の写真を送っていたために、スーは衣装係兼雑用として働くことに。

 チャールズ・チャップリンの初期短編を見たことがある人ならば、顔を覚えていることだろうメイベル・ノーマンド。映画界初のコメディエンヌとして、もっともっと知られてもいい存在だと思うが、現在では忘れられた存在の一人となっているのが非常に寂しい。そんな1910年代の初めから活躍していたノーマンドは20代後半を迎えていた。

 かつてはキーストン社で短編コメディを大量に生産して、こちらも映画界初のコメディ専門会社としてその名を馳せたマック・セネットは、かつて抱えていたコメディアンたちの多くは人気者となっていたが、すでにセネットの元を去っていた。

 「臨時雇の娘」はそんなノーマンド主演=セネット製作で作られた作品である。この頃には明らかに落ち目になっていた2人が、恋人だったとも言われる2人が、かつてと同じようにタッグを組んだ最後の長編である。その意味で、「臨時雇の娘」は見た目以上に何だか思い入れが出てくる。


 面白い作品だと思う。汽車に飛び乗るスタントとか、ライオンが撮影所に巻き起こす大混乱とか、詐欺師との格闘とか、視覚的に楽しめる部分が大量にある。だが、考えて作られたのが伝わってくる整理された視覚的な楽しさは、かつてのノーマンド=セネットの作品群の混沌とは完全に異なるものだ。ストーリーも、時に人情溢れ、時に犯罪物の要素を盛り込み、時に撮影所ならではのギャグを盛り込むなど、配慮が感じられる。

 ストーリーの展開は、意外だった。ノーマンド演じるスーは、スターどころか女優にもなれないのだ。ハリウッドでのスーは、衣装係兼雑用として働き、詐欺師に騙されるだけだ。スーにとってプラスだと思えるのは、そのおかげで幼馴染のデイヴの愛に気づいたことくらいか。


 スターにならない女優物語を、かつてトップを取ったセネット=ノーマンドが作ったことに、「臨時雇の娘」の意味がある。勝手に深読みをすると、2人が映画界に入らなかったとしたらたどったかも知れない人生を描いているかのようだ。そして、そんな作品が最後の2人のコンビ作となるなんて、なんだか切ない。

 メイベル・ノーマンドは、この後数本の短編映画に出演し、1930年に30代の若さで亡くなる。彼女はスーとは異なりスターになれた。だが、スーと同じように幸せだっただろうか?それは、他人が決めることではない。幸せだったらいいなと思うだけだ。