映画評「巨人征服」

製作国アメリカ 原題「WHY WORRY?」 ハル・ローチ・ステュディオズ製作 パテ・エクスチェンジ配給

監督・脚本サム・テイラー 監督フレッド・ニューメイヤー 製作ハル・ローチ 撮影ウォルター・ランディン 編集トム・J・クライザー 
出演ハロルド・ロイド、ジョビナ・ラルストン、ジョン・エースン、ウォーレス・ハウ、ジム・メイソン

 億万長者のハロルドは、自分が病気だと思い込み、看護婦と共に南米へと静養に向かう。しかし、行き着いた先の国では革命騒ぎが持ち上がっており、ハロルドは巨人の男と共に反乱軍に捕らえられた看護婦を助け出し、革命を鎮圧するのだった。

 前作「要心無用」(1923)まで相手役を務めたミルドレッド・デイヴィスが、ハロルド・ロイドと結婚したために、「巨人征服」ではジョビナ・ラルストンが相手役として出演している。ロイドとラルストンは、この後の作品でもコンビを組んでいくことになる。また、巨人役は当初別の役者が決まっていたが、急死してしまったために急いで代役探しが行われ、「巨大な靴が発注された」という新聞記事を読んだ製作陣が発注した男性を見つけ出して出演させたのだという。さらにこの作品は、ロイドが映画界入りした時からのボスであるハル・ローチと組んだ最後の作品でもある。次の「猛進ロイド」(1924)から、ロイド自身の製作会社で映画を製作していく。

 この作品の前に作られた「要心無用」と、後に作られた「猛進ロイド」は比較的知名度の高い作品だと思うが、「巨人征服」はその間に挟まれて地味な存在の作品である。しかし、この作品も他の2作品とヒケを取らないほど面白い作品である。

 都会を舞台にした作品が多いように感じられるロイドだが、「巨人征服」のような都会以外で活躍する作品も多くある。例えば、「豪勇ロイド」(1922)では、回想という形で南北戦争を描いている。しかし、「巨人征服」の設定がロイドの代名詞でもある小市民ではなく億万長者であるということもあり、どこか番外編的な雰囲気があるのは確かだ。それが、「巨人征服」の知名度を低くしているのかもしれない。さらには、この作品ではハロルドと共に反乱軍と戦う巨人の存在感があまりにも大きい。そのために、ハロルド・ロイドの作品の名前を挙げていくときに、どうしても後ろの方になってしまうのかもしれない。

 この巨人が歯痛に苦しんでいるという設定にした発想が見事だ。これによって、チャールズ・チャップリンバスター・キートンの作品では主人公を苦しめる存在である大男が、どこか愛らしいキャラクターとなっている。そして、巨人の歯を抜くためにハロルドが様々な工夫を凝らすギャグにも結びついている。

 革命が起こるというストーリーながら、ここには思想性はまったく感じられない。革命は映画を活気づけるためのニトログリセリンの役割を果たしているに過ぎない。そして、革命によって活気づけられた中に、考えられたギャグの数々が披露されている。

 例えば、町にやって来たハロルドが革命軍によって倒されていく住民たちを見て(ハロルドは倒される瞬間は見ていないため)、自分にお辞儀をしていると思い込んだり、愛する女性のために大げさな身振りで愛を告白していると思い込んだりするギャグの連鎖の見事なこと。また例えば、大きな筒と、巨人が吐くタバコの煙と、看護婦が叩く大太鼓の音で、椰子の実を大砲の弾を思わせるギャグを見よ。練りに練られたこれらのギャグは、私を笑わせ、そして感嘆させた。

 ハロルド・ロイドの作品を肩に力を入れて見てはいけない。ここにあるのは、1時間に渡る考え抜かれたギャグの見事な視覚化なのだから。ギャグというのは「笑おう」と意気込んで笑うものではなく、思わず笑ってしまうもののはずなのだから。



【関連記事】
中産階級の上昇志向 ハルロド・ロイドの「要心無用」