映画評「ロイドの要心無用」

製作国アメリカ 原題「SAFETY LAST!」 ハル・ローチ・ステュディオズ製作 パテ・エクスチェンジ配給

監督・脚本サム・テイラー 監督フレッド・ニューメイヤー 製作・脚本ハル・ローチ 脚本ティム・フェーラン 撮影ウォルター・ランディン 編集トム・J・クライザー メイク ウォーレス・ハウ

出演ハロルド・ロイドミルドレッド・デイヴィス、ビル・ストローザー、ノア・ヤング、W・B・クラーク  

 田舎から成功を夢見て都会へ出てきた若者は、田舎に住む恋人に成功したと嘘の手紙を送る。ある日、突然都会へやって来た恋人をごまかすために大金が必要になった若者は、客を集めた社員に千ドルを与えると言う支配人の言葉を聞く。若者は、壁のぼりが得意な友人にデパートのビルの壁を登って客を集めさせようとするが、友人が上れなくなってしまい、若者自身が上るハメに陥る。

 ビルの大時計からぶら下がるシーンが有名な「要心無用」は、サイレント・コメディの三大喜劇王の一人と言われるハロルド・ロイドの代表作の1つとされている。

 ロイドには、チャップリンのような見事なパントマイム芸もなければ、キートンのような圧倒的な身体能力の高さもない。それでも、ロイドが三大喜劇王と呼ばれるのは、ロイドの喜劇がストレートな面白さを備えているからだろうと思う。

 親しみやすいキャラクターが、無理のないストーリー展開の中で繰り広げるコメディは、安心して楽しむことができる。また、きちんとした構成となっている点も、楽しさを感じさせてくれる理由の1つだろう。デパートで働くロイドの様子から、細かいギャグをジャブのように打ち、若者がビルをよじ登ることになる後半はストレート、フック、アッパーと徐々にパンチの重いギャグを畳み掛ける。

 ビルをよじ登るシーンは非常によく出来ている。ビルの屋上にセットを作って、高さを感じさせるショットの撮影と安全性を両立させたのだという。同時期に作られたバスター・キートンの「荒武者キートン」(1923)が、セットで撮影されている感じがしたのとは対照的だ。

 個人的な感想を書くと、「要心無用」はビルをよじ登る前の方がおもしろいと思う。セットをうまくつかって死刑執行に向かう囚人と同じ構図で撮影されるオープニング(意味は何もない)、遅刻しそうになった若者が救急車を使って職場に向かうギャグ、バーゲンで押し寄せるおばさんたちにタジタジとなる様子など、特別なシチュエーションではない、ジャブのように放たれるギャグが非常におもしろい。

 ビルをよじ登るシーンにもギャグはあるのだが、それは若者が落ちるかもしれないというサスペンスを感じさせる役割も果たしている。私にはギャグとサスペンスが両立せずに、どちらも中途半端になっているように感じられたのだ。

 「要心無用」が楽しい作品であることは間違いない。ロイドの素晴らしさは、肩の力を抜いて楽しめる質の高いコメディを多く(チャールズ・チャップリンのコメディは、この頃には「肩の力を抜いて」は楽しめないし、寡作になっていた)作ったことにある。「要心無用」はそんなロイドらしい作品だ。



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