映画評「捨小船」

製作国アメリカ 原題「THE LOVE NEST」
バスター・キートン・プロダクション製作 アソシエイテッド・ファースト・ナショナル・ピクチャーズ配給
監督・脚本・出演バスター・キートン 監督エドワード・F・クライン 製作ジョセフ・M・シェンク 撮影エルジン・レスレー
出演ジョー・ロバーツ、ヴァージニア・フォックス

 婚約者に捨てられたバスターは、小船に海に出る。捕鯨船に助けられたバスターは、乗組員の一人として働くことになるが、船長は短気で暴力的だった。

 キートンの短編でボートを使ったものといえば、「漂流(キートンの船出)」(1921)が思い浮かぶ。「漂流」と比較してしまうと、「捨小船」の面白さは何段か落ちるように思える。その理由は何かと考えると、簡単だ。「捨小船」には嵐がない。

 だからといって、「捨小船」がつまらないわけではない。アイデアの冴えたギャグはいくつかある。暴力的な船長から逃げようと決意したバスターは、救命ボートが重くて運べないために、船自体の船底に穴を開けて船を沈めてみせる。また、ラストは夢オチだけと思わせておいて、しかも小船自体がドックにロープでつながったままでまったく進んでいなかったことが示される。

 アイデアだけで見ると、「捨小船」は決して悪くない。だが、「漂流」での嵐に遭遇したが故の凄まじいキートンのアクロバティックな動きを見せられてしまうと、どこか物足りなさを感じてしまう。

 キートンはどんな困難でも無表情で乗り越えてみせるが魅力のコメディアンだ。困難は大きければ大きいほどいい。嵐のような巨大な自然がキートンのベスト・パートナーであることは、後の「キートンの蒸気船(キートンの船長)」(1928)が証明している。

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