映画評「キートンの恋愛三代記」

製作国アメリカ 別題「滑稽恋愛三代記」 原題「THREE AGES」
バスター・キートン・プロダクション製作 メトロ・ピクチャーズ・コーポレーション配給

監督・製作・脚本・出演バスター・キートン 監督エドワード・F・クライン 製作ジョセフ・M・シェンク 脚本クライド・ブラックマン、ジョゼフ・ミッチェル、ジャン・C・ハヴェズ 撮影エルジン・レスレー、ウィリアム・C・マクガン 美術フレッド・ガブリー

出演ウォーレス・ビアリー、マーガレット・リーイー、ジョー・ロバーツ、ホラス・モーガンリリアン・ローレンス

 石器時代ローマ帝国時代、現代における恋愛についての物語。それぞれの時代で、キートンがライバルとの戦いに勝ち、愛する女性を手に入れる様子を描く。

 キートンにとっての初の長編映画と言われる。正確には「馬鹿息子」(1920)で長編作品に主演しているが、「馬鹿息子」の監督はキートンではなく、アクロバティックな動きもあまりない作品であるため、「恋愛三代記」が初の長編映画とみなされている。

 「イントレランス」(1916)のパロディとも言われる作品で、3つのエピソードが交互に描かれながら進行していく。本が開かれるシーンからスタートしているところも「イントレランス」と同じで、意識して作られたことは間違いないだろう。キートンがこの形式で初長編作品を監督したのは、もしも長篇として失敗したときに、それぞれの時代のエピソードを別個の短編として公開しようとしたからだと言われている。「イントレランス」は公開後の興行的な失敗をうけて、個別のエピソードのみでの公開が行われた。だが、幸いにも「恋愛三代記」は成功したため、別個で公開されることはなかった。

 キートンは「恋愛三代記」までに数十本に及ぶ2巻物の短編に出演している。2巻物の短編群のほとんどは素晴らしい出来で、キートンのアクロバティックな動きに、乗り物やセットをうまく使った優れたアイデアによるギャグが組み合わさった作品となっている。「恋愛三代記」は自身でも作りなれた2巻物を組み合わせた作品とも言え、さすがに優れたギャグのオンパレードとなっている。


 石器時代では、木を用いた投石器を使って自らを投げ飛ばしてみせるというアクロバティックな動きの楽しさに加えて、遺言を書いてもらうときのギャグ(キートンは長々としゃべっているのに、石に刻まれるのはほんの少し)や、ライバルの男が投げた石をキートンが野球のように持っていた棍棒で打ち返すギャグなど、アイデアが冴えている。

 ローマ時代は、なんと言っても「ベン・ハー」のパロディとも言えるチャリオット競争のシーンが面白い。ちなみに、フレッド・ニブロ監督、ラモン・ノヴァロ主演の「ベン・ハー」は1925年の作品であり、「恋愛三代記」が製作されたときはまだ公開されていない。だが、「ベン・ハー」の原作は1880年に出版されベストセラーになっており、舞台化もされ、1907年には15分の短編が映画化されているため、パロディといっていいのではないかと思う。

 チャリオット競争のシーンでは、キートンは砂地でもうまく動けるように車輪をスキーにして、馬を犬に変えて対決に挑む。一頭の犬がケガをするとスペアの犬と取り替えたり、猫を犬の前にぶら下げて犬を走る気にさせるといったギャグが満載だ。

 ローマ時代の大規模なセットが素晴らしい。チャリオット競争のシーンでは、巨大な客席まで作られている。「恋愛三代記」は、当時大きな映画会社だったメトロ社が関わったために実現できたのかもしれない。また、メトロ社の他の作品で使われていたセットを使えたのかもしれない。

 現代のシーンが、アイデアもアクロバティックな動きも最も冴えているように思える。冒頭では、キートンの旧式の自動車が、バンプに乗り上げた瞬間にバラバラ(一部ではなく、文字通り全体がバラバラ)になるというアッと驚くギャグから始まる。圧巻は、キートンがビルの屋上から隣のビルの屋上へと飛び移ろうとするが、失敗して落下。だが、窓につけられた布製の屋根のおかげで助かるというアクロバット

 このアクロバットにはキートン映画の真髄があるように思える。現在の映画なら、カットを割って、大げさな音楽と叫び声が加わり、時間をかけてみせるところを、キートンはさらりと数秒の出来事として見せてしまう。キートンはどんな状況に陥っても、どんなにすごいアクロバットを行っても、無表情でさらりと演じて見せる。それがキートンの魅力の1つだ。「これからすごいことをやりますよ!」という提示がなされないために、不意打ちで訪れるキートン映画の素晴らしいシーンは、現在の人々を驚かせるのに十分だが、一方で現在の見せ方に慣れている観客は気づかずに素通りしてしまう可能性も持っている。


 「恋愛三代記」は2巻物から長篇へと移行していくキートンの習作とも言える作品だが、内容は豊穣で楽しい。キートンは、これ以後本格的な長篇へと舞台を移して大活躍をしていくことになる。

 余談だが、この作品にはオリバー・ハーディが出演していると言われているが、それは間違いであるという。ハーディによく似た別の俳優が出演しているのが間違って伝えられてしまってるらしい。


【関連記事】
笑わない喜劇役者 バスター・キートン、長編へ


キートンの恋愛三代記 [DVD]

キートンの恋愛三代記 [DVD]

KEATON THE BEST バスター・キートン傑作集 [DVD]

KEATON THE BEST バスター・キートン傑作集 [DVD]