映画評「蠱惑の街」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]ドイツ [原題]DIE STRASSE [英語題]THE STREET [製作]STERN-FILM [配給]ウーファ

[監督・脚本]カール・グルーネ

[出演]オイゲン・クレッパー、ルチー・ヘーフリッヒ、アウド・エゲーデ=ニッセン

 退屈な家庭に飽きた中年の男は、刺激的な夜の街へと繰り出していく。男に擦り寄ってくる商売女に騙されて、金をむしり取られた男は、さらに殺人容疑までかけられてしまう。

 当時ドイツでは「街路の映画」と呼ばれる作品が作られていた。室内ではなく、街に目を向け、社会の暗部を描こうとした作品である。だが、多くはセットで作られていた点も特徴の1つである。セットへのこだわりは、室内劇映画から続くドイツの伝統とも言われている。また字幕も極端に少ないのも特徴だ。

 「蠱惑の街」では、リアリティを保ちながら、セット撮影ならではの演出も見せてくれる。影を効果的に使った演出もそうだが、最も印象的なのは主人公の中年男を監視するように光る目のような街灯だろう。

 「アイズ・ワイド・シャット」(1999)を思わせる、一夜の悪夢のような体験を描いた作品で、当時のドイツ映画の流れを汲むリアリズム+表現主義的手法のハイブリッドな演出が見所と言えるだろう。だが、途中からは安っぽい犯罪ドラマの様相を呈してしまうのが残念だ。主人公の視点が突き詰められていれば良いのだが、「蠱惑の街」はどこか遠くから男を眺めているような作品のため、一夜の悪夢のような体験もどこか醒めて見えてしまう印象を受けた。

 「カリガリ博士」(1919)からのドイツ映画の流れを見る上で、欠くことができない作品であることは確かだろう。リアリズム、セット主義、ドイツ表現主義・・・こういった当時のドイツ映画を飾る言葉が、ごちゃごちゃになることなく、1本の作品の中で混ぜ合わさっている。


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