ジョン・フォードが描くアメリカの叙事詩大作「アイアン・ホース」

 ジョン・フォード自身が最も好きな映画だと語り、フォードが注目されるきっかけとなった作品がこの年作られている。それは、1860年代の大陸横断鉄道敷設の物語をベースにした「アイアン・ホース」(1924)である。1923年に製作された「幌馬車」に刺激されて作られた作品で、フォックスから45万ドルという当時としては莫大な製作費を得て作られ、ジョージ・オブライエンが主人公に扮した。機材と人の輸送用に56両の貨車を連結した列車を借り切り、ネバダ州の砂漠に人口の町を2つ建設したという。さらに、エキストラに鉄道工夫3千人、中国人労働者千人、インディアン8千人、食事のために100人のコックを雇ったという。他にも、馬2千頭、野牛千3百頭、牛1万頭を調達したと言われる。

 興行的に大ヒットを記録し、ニューヨークでは1年にわたって上映されたという。「極北の怪異」(1922)以後、ハリウッド映画にはリアリティが求められるようになっており、その期待に応えた作品であったとも言われる。

 大ヒットとなった「アイアン・ホース」や「幌馬車」はアメリカの叙事詩的作品である。当時はまだOK牧場の決闘で知られるワイアット・アープも生きており(1929年死亡)、神話的時代と工業化時代が直接隣り合った時代とも言え、「アイアン・ホース」で描かれた世界は、当時の観客にとって身近なものだった。こうした叙事詩が映画として作られた点について出口丈人は「映画映像史」の中で次のように書いている。

「20年代には、アープの死に象徴されるようにアメリカの神話的時代は終わろうとしていた。叙事詩が生まれるのはそのようなときである。そして工業社会化にあったアメリカでは、叙事詩は文学ではなく映画で形を成した。こうした特殊性は、その後もアメリカで映画が特別な意味をもち続ける原動力となった」


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映画評「アイアン・ホース」