「ボーケール」 ルドルフ・ヴァレンティノの苦戦

 ルドルフ・ヴァレンティノは、処遇への不満から所属していたパラマウントと裁判にまでなった後、映画製作について完全な支配権を得ることができるようになった。そして作られた「ボーケール」(1924)が公開されている。監督はシドニー・オルコットが担当し、ポンパドゥール婦人やリシュリュー卿が登場する歴史ロマンスである。ヴァレンティノ扮するシャルトル公爵は、愛するアンリエット姫に辱められたため、姫と結婚するようにという王の命令に背き、イギリスに逃亡。イギリスでは理髪師のボーケールと名乗り、貴婦人メアリーに恋をするという内容だった。

 ヴァレンティノは売り物である黒髪の上に金髪のカツラをかぶり、フランス宮廷の理髪師を演じた。今までとは違うタイプの役を演じた作品だが、興行的に失敗した。

 この失敗について、アレグザンダー・ウォーカーは「スターダム」の中で次のように述べている。

 「それはあたかも古いイメージが、本来その持ち主であるスターから勝手に離れていって、それ自身の称賛者の群れを獲得したかのようだった」

 ちなみに、「ボーケール」の出演には、当時のヴァレンティノの妻だったナターシャ・ランボヴァの意向が強く働いたとも言われている。

 これに懲りたからか、ヴァレンティノは「情熱の悪鬼」(1924)でアルゼンチンの冒険物という、かつてのタイプの作品に回帰している。