ドイツ映画 表現主義の末裔「裏町の怪老窟」

 「カリガリ博士」(1920)から始まった表現主義の流れの作品として、パウル・レニ監督による「裏町の怪老窟」(1924)が作られている。

 レニは、表現派の画家からマックス・ラインハルトの舞台のデザイナーを務め、1914年から映画のセットを手がけるようになった人物である。1921年に舞台演出家のレオポルド・イエスナーと「裏梯子」(1921)を演出していた。「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922)の脚本を担当したヘンリック・ガレーンのアイデアで、「裏街の怪老窟」を作ったと言う。

 見世物の蝋人形館にあるハルン・アル・ラシッド、イワン雷帝切り裂きジャックの3人のエピソードを映像化したものである。エミール・ヤニングス演じるアル・ラシッドはアラビアン・ナイトの代表的な太主で、気ままで、滑稽で、淫蕩な人物として描かれた。コンラート・ファイト演じるイワン雷帝は残虐で、陰険で、分裂症な人物として描かれた。ヴェルナー・クラウス演じるジャックは、殺人狂の偏執者として描かれた。それぞれ、拷問、暴力、猟奇的な殺人の血が流れ、グロテスクな幻想が展開された。岡田晋は「ドイツ映画史」の中で、次のように書いている。「三人ともカリガリとチェザレを一緒にし、それにラスコリニコフを加えて、極端に彼らの性格を肥大化したような怪物だ」

 レニ自らセットを担当した。「カリガリ博士」(1920)の平面さと、「朝から夜中まで」(1920)の立体的構成をないまぜにし、極端にアンバランスで混乱したバロック調の画面を熱っぽく演出したと言う。また、ドイツの伝説的な強盗リナルド・リナルディニの物語も入るはずだったが、製作費不足で中止となっている。

 レニの名前は、この作品で広く知られるようになり、この後ハリウッドに招かれ、ドイツ表現主義の要素をアメリカの恐怖映画に加えることになる。