ドイツ 室内劇映画とルプ・ピックの「除夜の悲劇」

 スタジオ主義のドイツ映画の伝統ともいえる「室内劇映画」の分野では、ルプ・ピック監督の「除夜の悲劇」(1924)が作られている。脚本は同じピック監督の室内劇「破片」(1921)も担当したカール・マイヤーである。

 登場人物は平凡なカフェの店主、母と妻の3人である。母と妻の不和に悩む店主が、大晦日の夜に自殺するというストーリー。スタジオに建てられた小さなカフェが舞台だが、人でにぎわう街の風景や海の実景が繰り返し挿入され、登場人物たちの心理的葛藤を盛り上げている。批評家から高く評価されたたと言われている。

 ルプ・ピックは、室内劇の代表的監督と言える。ピックは表現主義へのアンチ・テーゼを意図したと言われ、身近な日常の世界や平凡な日常生活に映画の素材を求めた。そこで描かれるのは、平凡な生活の中で生まれる人間の心理的葛藤と悲劇的な破局である。細部まで神経を使ったリアルなセットと、計算された小道具のインサート、俳優の微妙な表現などが特徴と言われている。