ドイツ映画 F・W・ムルナウの無字幕映画「最後の人」

 F・W・ムルナウは、革新的なカメラワークを見せる「最後の人」(1924)を監督している。

 カール・マイヤーが室内劇映画の典型を目ざして書き上げた力作であり、元々はルプ・ピックのために用意したのだったが、ピックと意見が合わずに宙に浮いていたところを、マイヤーがムルナウに演出を依頼して作られたのだという。

 平凡な市民を主人公に、字幕を使わず、人間の心理を描こうとした作品であり、ストーリーは簡潔で単純だ。だが、制服が思想的シンボルにまで高められ、一人の個人と一つの文化が結び付けており、老人を描いた作品としても秀逸で、心理描写と平凡な物語の写実的描写が結実した作品と評価されている。当初は悲劇的なラストだったが、ハッピー・エンドに変更されている。これは、主演のエミール・ヤニングスの希望だったと言われている。

 自由に動き回るカメラや、俯瞰や仰角といった角度をうまく活かした撮影が特徴的だ。カメラマンのカール・フロイントは様々な技術を開発し、マイヤーとムルナウの要求に応えたという。岡田晋はその効果を「現実空間は心理空間に、ものは象徴に変わってゆく」と述べている(「ドイツ映画史」)

 現在においても評価は高い。ジョルジュ・サドゥールも「世界映画史」の中で、「カンマーシュピール(室内劇)の絶頂点であり、かつ終末であった」と高く評価している。