映画評「アメリカ」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]AMERICA [製作]D・W・グリフィス・プロダクションズ [配給]ユナイテッド・アーティスツ

[監督・製作]D・W・グリフィス [原案・脚本]ロバート・W・チャンバース [撮影]G・W・ビッツァー、マルセル・ル・ピカード、ヘンドリック・サートフ、ハロルド・S・シンツェニック [編集]ジェームズ・スミス、ローズ・スミス [美術]チャールズ・M・カーク

[出演]ニール・ハミルトン、アーヴィル・アルダーソン、キャロル・デンプスター、チャールズ・エメット・マック、リー・ベグス

D・W・グリフィスのアメリカ [DVD]
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 イギリスに対するアメリカの不満の高まりから、アメリカ独立戦争初期の戦いに至るまでを、恋愛を交えて描いた作品。

 D・W・グリフィスの作品として有名なものの1つに「国民の創生」(1915)がある。「国民の創生」は南北戦争を背景にした作品であるが、「アメリカ」は独立戦争を背景にした作品だ。「国民の創生」は、黒人の描き方において、南北戦争のように国を二分するような議論を巻き起こした作品である。「アメリカ」はアメリカとイギリスの間の戦争である。今回は、アメリカを二分するような議論は起こらないだろうと、グリフィスは考えて製作したのかもしれない。確かに、そのような議論は起こらなかった。いや、正確に言うならば、ほとんど何の議論も起こらなかったようだ。

 「アメリカ」は、グリフィスが「国民の創生」で取ったのと良く似た手法で作られている。ワシントンのような偉人を登場させ、アメリカ人であれば誰でも知っているであろうエピソード(ポール・リビアの真夜中の騎行など)を織り交ぜて、見る人の親しみを増す。もちろんロマンスも展開され、派手な戦闘シーンもある。悪役の役割はイギリス人(の一部の人物)に負わせ、単純な勧善懲悪ものとしても楽しめるようになっている。

 「国民の創生」と似た構成にも関わらず、なぜ「アメリカ」は話題を呼ばなかったのか。それどころか、酷評されたうえに興行成績は惨憺たるもので、グリフィスのキャリアの下降が決定的になった作品とも言われている。それは、映画的な魅力に乏しいからだろう。

 決してつまらない作品ではない。「国民の創生」で確立されたグリフィスの手法は、きっちりと詰め込まれている。だが、「国民の創生」の技法は、当時であれば革新的なものであったが、すぐに一般化されてしまった。そして、ほぼ同じ手法で作られた「アメリカ」は、他の人物が作った「国民の創生」の手法を取り入れてはいるが面白くない作品と同じように、グリフィスが作ったとしてもそれだけでは面白くはならないのだった。

 「アメリカ」には、リリアン・ギッシュはいない。議論を呼ぶような黒人の描写もない。手に汗を握るようなサスペンスもない。グリフィスの手法は、きっちりと使われていても、映画はそれだけでは面白くなるものではない。そんな厳しい現実を「アメリカ」は、グリフィスに突きつけている。


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