映画評「アイアン・ホース」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]THE IRON HORSE [製作・配給]フォックス・フィルム・コーポレーション

[監督・製作]ジョン・フォード [原案・脚本]チャールズ・ケニヨン [原案]ジョン・ラッセル [撮影]ジョージ・シュナイダーマン

[出演]ジョージ・オブライエン、マッジ・ベラミー、シリル・チャドウィック、チャールズ・エドワード・ブル、ウィル・ウォーリング、フランシス・パワーズ、フレッド・コーラー、グラディス・ヒューレット、J・ファレル・マクドナルド

[受賞]アメリカ国立フィルム登録簿登録(2011年)

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 1800年代中頃に建設されたアメリカ大陸横断鉄道の様子を、鉄道建設を夢みていながらもネイティブ・アメリカンに殺された父を持つ青年デイヴィと、幼なじみの女性ミリアムの恋などを絡めながら描く。

 冒頭に「歴史に忠実に作られた」という断り書きと、リンカーン大統領への賛辞の字幕を見ると、「アイアン・ホース」がかなり気合の入った作品として作られていることがわかる。1923年にパラマウントで製作された西部開拓ドラマ「幌馬車」の大ヒットを見て、フォックスが製作したという「アイアン・ホース」は、「幌馬車」が比較的肩の力が抜けているのと比較すると、姿勢を正してみなければならないような威圧感がある。

 映画は、大陸横断鉄道はいかに偉大な事業であったかを謳い上げ、そのためにアメリカ人たちはいかに一体となって働いたかを描き上げる。南北戦争という、同じ国でありながらも殺し合うという忌まわしい経験をする一方で、アメリカは同時期に素晴らしいチャレンジを行っていたということだろう。ただし、この「アメリカ」に、アイルランド系やイタリア系が入っていても、ネイティブ・アメリカンや中国系移民は入っていないことは注意しておく必要がある。

 「アイアン・ホース」の気合の入り方は、リンカーンや(主人公が幼い頃に住んでいた家の近所に住んでいる)、バッファロー・ビルのような超有名人を登場させるところでもわかる。だが、リンカーンバッファロー・ビルの存在は、興味を引くには十分だが、それ以上の役割は果たしていないように感じられる。

 大陸横断鉄道の事業と同じように、「アイアン・ホース」の製作も大事業であることは、映画を見るだけでも伝わってくる。ロケ中心の撮影隊には、何千人のエキストラや、彼らに食事を作るコックなどが同行したと言われている。映画の中でも、鉄道敷設がいかに大規模な事業だったかを示す事柄のひとつとして、線路が延びるごとに、街が丸ごと線路の先端部分に移動するというシーンがあるが、「アイアン・ホース」の撮影隊自体も、まるで一つの街のように大規模だったようだ。

 監督のジョン・フォードは当時29歳だった。フォードは「アイアン・ホース」の前に50本以上の映画を監督していたが、これほど大規模な映画の監督は初めてであり、「アイアン・ホース」の成功により、フォードは一流監督の仲間入りをしている。とはいえ、「アイアン・ホース」は、あくまでもフォックスという映画会社の作品であるという印象を受ける。ジョン・フォードジョン・フォード映画を作るのはもう少し後になってからだ。

 まさにジョン・フォードといった作品ではないとしても、「アイアン・ホース」にはフォードのうまさが垣間見える。特に、主人公のデイヴィと恋敵でもあるジェッソンが一触即発の状態となり、酒場でジェッソンがデイヴィを待っているシーン。酒場の男たちの視線は張りつめた雰囲気を感じさせる。そこに、ドアが開く。緊張感は高まる。しかし、ドアからは誰も入ってこない。緊張はさらに高まる。少し間があってから入ってきたのは、まったく関係のない人物で、緊張が一気に緩む。このシーンだけでも、ジョン・フォードの演出力の確かさが伝わってくるようだ。

 「アイアン・ホース」は、肩に力が入りすぎているし、作られたアメリカが謳い上げられているかのような印象を受ける。それでもなお、ジョン・フォードの腕前を感じることが出来る作品だ。そして、何よりも、「アイアン・ホース」がなければ、その後のジョン・フォードの活躍はなかったかもしれないということを考えると、ジョン・フォードの名を世間に知らしめたというだけでも、「アイアン・ホース」の価値はある。


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