映画評「桃色の夜は更けて」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]HER NIGHT OF ROMANCE [製作]コンスタンス・タルマッジ・フィルム・カンパニー [配給]ファースト・ナショナル・ピクチャーズ

[監督]シドニー・フランクリン [脚本]ハンス・クレイリー [撮影]レイ・ビンガー、ヴィクター・ミルナー [編集]ハル・C・カーン

[出演]コンスタンス・タルマッジ、ロナルド・コールマンジーン・ハーショルトアルバート・グラン

 療養のためにイギリスへやって来た百万長者のアダムスと美しい娘ドロシー。アダムスに療養のための土地を売ったポールは、ドロシーと結婚して再び土地を取り戻そうとするが、良心の呵責からドロシーの元を去る。だが、偶然から同じ屋敷で一夜を共にした2人は、執事をごまかすために結婚したことにする。

 当時人気を得ていたコメディエンヌだったコンスタンス・タルマッジが主演した作品である。タルマッジの名前を冠した製作会社で作られている。

 「桃色の夜は更けて」とはうまいタイトルを付けたものだ。そう、この作品は「桃色」である。タルマッジ演じるドロシーは、コールマン演じるポールに積極的に迫る。医者を装ったポールは、具合が悪いというドロシーの元を訪れる。ハンサムなポールに一目でやられてしまったドロシーは、聴診器がないというポールに「耳で聞いて」と胸をポールに押し当てるように突き出す。屋敷から去ろうと膨れたスーツケースを閉めようと躍起になるポールに対して、身を寄せ、指をからめ、顔を近づける。

 色情狂な書き方をしたが、実際にそうなのだ。だが、他の場面では、よくあるパターンのロマンスをうまく描いている。ドロシー(と父)の財産を狙う男としてポールにも非があるように描かれているが、一方でポールをそそのかす男はより非があるように描かれている。ドロシーは色情狂かもしれないが、ポールは道徳的に悪い。

 ポールの屋敷の執事は、2人が結婚したと聞いて泣いて喜ぶ。郵便配達員は村人たちに走って伝えに行く。村人たちは屋敷の前に集まって歓声を上げる。ポールに財産を狙われていたにもかかわらず、ドロシーの父はポールを気に入り、ドロシーとポールがうまくいくようにポールを呼び寄せる手紙を書き、家から出られないようにホースで水を撒いて豪雨が降っているように見せかける。

 ドロシーよりもポールの方が悪いし、彼女(とポール)を応援する周りの人々は温かい人たちばかりだ。そうした娯楽映画の公式にきっちりとのっとり、さらにはうまく描出されているがゆえに、ドロシーの色情狂ぶりはうまく隠されている。こうして、「桃色の夜は更けて」は良質なロマンスでありながら、他とは一味違う魅力を持った作品となっている。