映画評「嬲られ者」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]MANHANDLED [製作]フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー・コーポレーション [配給]フェイマス・プレイヤーズ=ラスキー・コーポレーション

[監督・製作]アラン・ドワン [原作]アーサー・ストリンガー、シドニー・R・ケン [脚本]フランク・W・タトル [撮影]ハロルド・ロッソン [編集]ジュリアン・ジョンソン

[出演]グロリア・スワンソン、トム・ムーア、アイアン・キース、リリアン・タッシュマン、アーサー・ハウスマン

 舞台はニューヨーク。デパートで一日中働き、満員の地下鉄に乗って通勤するテジーは家に帰るとヘトヘト。自動車の燃費を良くする機械の開発に明け暮れる恋人ジムともすれ違いでイライラしている。そんな中、上流階級のパーティに誘われたテジーは、画家からモデルの仕事を依頼される。

 この頃のグロリア・スワンソンは、まさに人気絶頂だった。セシル・B・デミルによる社交界を描いた作品に多く出演して人気を得たスワンソンだが、「嬲られ者」を見ると労働者の役柄もこなせることを証明している。元々スワンソンは、スラップスティック・コメディの父であるマック・セネットの元でデビューしている。「嬲られ者」の中で、偽物のロシア人貴族を演じさせられるように、美しい容姿と貫禄から上流階級の女性を演じるようになったが、コメディの演技を鍛えられた女優だったのだ。

 スワンソンのハツラツとした演技が最も光るのは序盤だ。満員の地下鉄の中で多くの人に押されてもがいたり、バッグの中身を落としてしまって一生懸命拾おうとしたり、降車駅に着くが乗ってくる客に押されたりと、散々である。このシーンでは、アメリカ人女性としては小さなスワンソンの体格(身長155センチ)も活きている。デパートで働くシーンでも、ガムをクチャクチャと噛み、ところかまわず噛んだガムを貼り付けるという、少し間違えると下品になる演技を見せてくれる。

 ストーリーとしては、正直たいしたことはない。この後スワンソン演じるテジーは、金持ちの男たちの俗物ぶりに触れて、ずっと愛し続けてくれたジムと結ばれる。だが、このストーリーのお陰で、ロシア人貴族になりすますという形で美しく磨かれたスワンソンを見ることができるし(髪をピッタリとなでつけたスワンソンの頭の美しいこと)、労働者としてのハツラツとした演技やその裏の弱い部分も見ることができる。

 「嬲られ者」は、スラップスティック・コメディアからキャリアをスタートさせ、上流階級を演じて人気を得たスワンソンが、その両方の魅力を見せる作品だ。サイレント時代のスワンソンがどういう魅力を持っていたかを証明する作品を1本だけ挙げるとするならば、「嬲られ者」が最適だろう。

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