映画評「SMILE PLEASE」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [製作]マック・セネット・コメディーズ [配給]パテ・エクスチェンジ

[監督]ロイ・デル・ルース [製作]マック・セネット [撮影]ジョージ・スピア

[出演]アルバータ・ヴォーン、ハリー・ラングドン、ジャック・クーパー、マデリン・ハーロック、タイニー・ワード

 保安官兼写真店経営のハリーは、恋敵に写真店を燃やされたり、結婚式の邪魔をされたりするが、何とか無事に結婚する。ある家族の写真を撮っていると、やんちゃな男の子のせいで、メチャクチャになってしまう。

 1920年代を代表するコメディアンの1人であるハリー・ラングドンの映画出演2作目。ラングドンらしさは、まだ表に出てきていない。馬や車を映像トリックで見せるシュールなアクションや、ハチやスカンクを使ったギャグなど、当時のスラップスティックの王道を見せてくれ、ラングドンと言うよりはセネットの作品と言った方がいいのかもしれない。

 ラングドンという枠を離れて考えると、この映画は面白い。ストーリーはバラバラだし、キャラクターも特徴があるわけではない。だが、ギャグがことごとく大げさなのだ。

 女性を巡ってケンカになる恋敵は、ハリーの写真店を燃やす。火のついたたいまつを手に、イスやカメラを燃やしていく恋敵の姿は狂気を感じさせるほどだ。そして燃え盛る火の迫力が加わり、一種異様な雰囲気を醸し出している。恐らく、特に狙ってこうした絵作りをしたわけではないだろう。恋敵は狂人として描かれてはいない。だが、単なる火事を超えたシークエンスとなっている。

 ハリーとやんちゃな男の子とのバトルも過剰な魅力がある。ハチに刺されたり、スカンクの屁の匂いをかいだりといったギャグは、それこそ腐るほど見てきたものだ。だが、この映画は少し違う。ハチ1匹ではなく、蜂の巣ごとスボンと一緒に履いてしまう。スカンクの屁は離れたところではなく、文字通り眼前(鼻前)でかがされる。映画は痛みも匂いも感じないメディアだが、痛さも臭さも伝わってくるかのような描写だ。

 この作品は、ラングトン作品として見ると物足りないかもしれない。だが、セネット作品としてみると、かつてからのギャグが大げさになって、かつてのキーストン映画で咲いた花が果実となったかのような感慨を感じる。


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