映画評「アエリータ」

※ネタバレが含まれている場合があります

アエリータ [DVD]

[製作国]ソ連 [英語題]AELITA [製作]メジラブポム

[監督]ヤーコフ・プロタザーノフ [原作]アレクセイ・トルストイ [脚本]アレクセイ・ファイコ、フェオドール・オッエップ [撮影]ユーリ・シェルジャブシュキー、エミール・シューネマン

 革命後のモスクワで設計士として働く男性ロースは、火星の王国について妄想を膨らませている。そんなロースは、元ブルジョアの男性と仲良くしている妻の姿を見て嫉妬し、妻に発砲してしまう。

 SF的要素が含まれた映画であるが、革命後のモスクワで働く一人の設計士と周りの人々の姿を描くことで、当時のソ連の様子の一端をうかがい知ることができる作品である。

 革命後のロシアで起こった内戦に巻き込まれた人々のために置かれた救護所、革命が起こりブルジョワの座から落ちたものの今なおブルジョワ的な生活を送ろうとする男性、混沌の中にも活気が満ち溢れる復興のための工事が行われている工事現場など、ロシア革命とその影響を描かれている点は注目に値する。

 革命後間もないということ(おそらく革命による高揚感が残っていたことだろう)や、政府の映画製作により、当時のソ連映画には多かれ少なかれ、革命を賛美する要素が含まれていた。「アエリータ」ではその要素がSF的に描かれている。

 原作はアレクセイ・トルストイ(「アンナ・カレーニナ」などのレフ・トルストイではない)という人物によるもので、原作からかなり自由に翻案されているらしい。かつての帝政ロシアのように描かれる火星では、労働者は地下でひたすら働かされている。火星にやってきた主人公ロースらのロシア人たちは、労働者たちを扇動し、自分たちがそうであったように、革命を起こして新たな国を作ろうとする。フリッツ・ラングの「メトロポリス」(1927)でも労働者たちの反乱が描かれるが、「アエリータ」の反乱が地球からやって来たロシア人が扇動するという形を取ることで、自分たちが達成した革命の偉業を自分たちで称えているような印象を受ける。

 「アエリータ」が最も特徴的なのは、火星のデザインだろう。アヴァン・ギャルドな衣装やセットのデザインは、見るだけで楽しいものがある。当時は世界的にアヴァン・ギャルドの熱が高まっていた時代であり、その1つの現れとしてもこの作品は位置づけられると言われる。特に、労働者たちが箱のようなものを被せられ、まるで生気が感じられない動きをする描写は、搾取される労働者たちという状況を見事に表現しているように感じられた。また、そんな労働者たちを見張る兵士たちの造形が「スター・ウォーズ」(1977)のクローン・トルーパーに似ていたことも書いておこう。

 「アエリータ」は、ソビエト映画が決して真面目な政治映画だけではなかったことを私たちに教えてくれる。そして、ソ連の人々が真面目な政治映画だけでは生きていけないことを意味している(「アエリータ」はソビエトで大ヒットし、女の子にアエリータと名前を付ける親が多くいたという)。そして、革命による高揚の熱と、アヴァン・ギャルドの熱が感じられる作品として、一見の価値はあると思う。

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